大きな夢のステップに
鱗形屋孫兵衛は、蔦重が宣伝上手なだけでなく、商売上手でもあることを知って、さらに信頼を深め、長く手掛けてきた『吉原細見』を丸ごと蔦重にゆだねる決断をした。書店主から委託編集者へ、そしてさらには独立した版元へと、まるで絵に描いた三段跳びのように、蔦重は大きくステップアップすることに成功するのである。
こうして誕生した蔦屋版『吉原細見』は、他の版元には真似のできない「地縁・近縁」という強みを発揮し、急速に人気化して類書を圧倒駆逐、1783(天明3)年正月にはついに市場を独占するようになる。だが、そのことは蔦重にとっては、大きな夢への始まりに過ぎなかった。蔦重には、江戸は元より日本中の人々を熱狂させるような本づくりという、べらぼうな夢があったのだ。

