2025年5月16日(金)

橋場日月の戦国武将のマネー術

2025年5月10日

 話題の蔦重こと蔦屋重三郎。NHK大河ドラマ「べらぼう」の舞台は花のお江戸の幻影城・新吉原。虚構の合間を束の間の真実が交差する中、1日で1000両の売上をあげたというマネーランドだ。

(歌川広重「東都名所 吉原夜桜の図」 Purchase, Joseph Pulitzer Bequest, 1918) 写真を拡大

 人権などという概念が無かった当時のこの街の商売が現代では許されないのは当然だが、日本の生活史・文化史を語る上で避けて通れないテーマであるのも事実。戦国武将同様、マネー面を通してこのテーマに愛情をもって接していきたい。

吉原の街並み

 では早速、江戸時代の新吉原に入っていくとしようか。浅草の浅草寺の北、隅田川から山谷堀に出て「日本堤」などと呼ばれる堤防から「衣紋坂」を下ると、「五十間道」と呼ばれるS字カーブの道があり、両側には物売りや茶屋などのたて出しの屋(たてだしのや。この場合、吉原のメインから離れた所に建てられた町屋)が並ぶ。その内の一軒、道の東側9軒目がドラマで蔦屋重三郎の義理の兄とされている次郎兵衛さんが営むお店(おたな)があった。

 おそらく小規模な引手茶屋(客を妓楼に案内する茶屋)だっただろう。重三郎はその一隅を借りて「吉原細見」の商売を始め、やがて並びの4軒手前に店を出した。その店名が耕書堂、またの名を薜蘿館〈へいらかん〉だ。

 この五十間道を進んで大門をくぐれば吉原の廓の内だ。重三郎が育った引手茶屋の蔦屋(ドラマでは大店(おおだな)の駿河屋に換えられている)は廓の中心をまっすぐ縦に走る「仲ノ町」沿いにあった。この南北の筋は「待合ノ辻」とも呼ばれ、呼び出された高級遊女が客の待つ茶屋に赴く「花魁道中」の舞台としても利用された。夜中になってもこの仲ノ町で遊女と客が忍び会う事もあり、まさに待合ノ辻の本領発揮。その情景が歌川国貞の浮世絵「夜の吉原」(ボストン美術館所蔵)にも描かれている。

(歌川国貞「夜の吉原」The Howard Mansfield Collection, Purchase, Rogers Fund, 1936)

 ドラマに登場する花魁(おいらん)・花の井(5代目瀬川)を抱える妓楼(女郎屋)・松葉屋などは実在で、その店舗は仲ノ町と最初に交差する江戸町の角近くの一等地に構えられていた。


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