しかし、日本の外食産業は割り箸がなければ食を提供できなくなると焦り、プラスチック箸に切り替えを進めた。国産割り箸では、量を調達できないからである。
結果的に中国で割り箸の輸出は禁止されず、今も大量に生産され輸出も盛んだが、一度プラスチック箸に変わった業界は元にもどさなかった。そのため需要は急速に落ちていく。なお中国産割り箸の材料は、竹も増えてきた。またベトナムなどでも割り箸生産が始まっているが、こちらも竹製が多い。
竹箸は、シラカバなどの元禄箸に比べれば高級感があって、しかも割りやすい。気がつくと、日本で出回る割り箸の半分以上が竹製になった。
現在日本の割り箸需要は、約200億膳ぐらいと言われている。ただし国産割り箸は縮小を続け、生産量は1~2億膳程度。もはやシェアは1%を切っている。
増える高級割り箸の需要
吉野杉箸は、輸入割り箸に席巻される中で高級割り箸として生きる道を探っていた。杉箸には幾つか種類がある。「天削」と呼ばれる片方が斜めにそぎ落とした形をした箸、両端がすぼまった「利久」、そして最初から割ってあり紙の帯で留めた「らんちゅう」の3種が主流だ。現在は最高級とされる「らんちゅう」が売れ筋だという。
やはり高級和食店では、杉箸が欠かせないのである。それに和食がユネスコ無形文化遺産に選ばれた影響も大きい。日本を訪れる外国人も和食を好み、割り箸で食べるのが普通になった。
以前のようにおぼつかない手つきではなく、堂々と箸を使いこなす。
また日本土産にもなっている。そうしたおかげか、高級割り箸の需要は増えつつあるという。
このように概観すれば、吉野杉箸にも曙光がさしているかのようだが、生産現場は疲弊してしまった。とくに大きなきっかけとなったのが、コロナ禍だ。
大半の飲食店は店を閉じたが、補償金が出た。しかし割り箸業界には何もない。高齢化も進んでいた割り箸職人たちの多くは、これを機に廃業してしまった。
「現在の国産割り箸の7割は吉野地方で生産していますが、下市町周辺の自治体の生産者を合わせても70軒くらいしか残っていません」(坂口理事長)
もともと杉箸は、住居の一角を工房にした家内製手工業的な作り方をしていた。一度閉じると、機械も手放してしまうから、工房再開は難しいのである。しかし、このままでは最高級の杉箸が消滅してしまいかねない。
