実はSDGsに寄与する
これまで幾度も「割り箸は森林破壊」という言説が飛び交って割り箸排斥運動が起きた。しかし国産割り箸は製材後に出る端材や間伐材を使ってつくられているし、外国産も建材にならないような木や竹を割り箸に回していた。
一方で、今や脱プラスチックが世界的潮流となっている。石油から製造されるプラスチックは、持続的でなく処分時に二酸化炭素(CO2)を排出して気候変動を招くとされるからだ。
欧米ではレジ袋だけでなく、プラスチックのナイフやスプーン、フォークなどは使わない方向に進んでいる。そして代わりに使われるのが、紙や木製のカトラリーだ。そこでは割り箸にも注目が集まっているそうだ。
建材にならない樹種、あるいは間伐材や端材などを有効利用してつくられる割り箸こそ、持続可能な開発目標(SDGs)に合致した森林の守り手ではないかとされるのだ。
実際に世界の割り箸需要は伸びている。これまで日本以外では日本食レストランしか需要がないように思われていたが、近年は和食以外でも割り箸を供する店が増えている。それなのに割り箸発祥の国から国産割り箸が消えつつある。
もっとも身近な精緻な木工芸品
割り箸こそ、もっとも身近な木工品だという声も強い。製造には多くの工程があって、手作業の部分も残す。木目などを選んでつくられた美しい割り箸は、まさに職人技を駆使した精緻な木工芸品なのである。
また家具や住宅など木製品はあっても、手に触れられる部分が少ない。木材の上がクロスに覆われたり、表面に塗料が塗られたりするから、素の木肌ではない。その点、割り箸なら直に木肌と触れ合える。そこで割り箸を森林環境教育や木育の素材として使われている。
筆者は、自宅でも杉の割り箸を使っている。まず割りやすい。軽い。つかみやすい。手触り。そして香り。プラスチック箸や塗り箸にはない快感だ。安い割り箸や竹箸とも別物である。1回で使い捨てることはせず、洗って幾度か使う。もしこの杉箸がなくなったらと思うと、食も細る。
『吉野杉箸再生プロジェクト』が今後どのように展開するのかわからないが、国産割り箸を失うことになれば、産業以上に文化的な損失も大きいだろう。
