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2014年5月22日

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中西輝政 (なかにし・てるまさ)

京都大学名誉教授

1947年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。ケンブリッジ大学大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院・人間環境学研究科教授。2012年4月より京都大学名誉教授に。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。近著に『日本の悲劇 怨念の政治家小沢一郎論』(PHP)がある。

 今回のロシアによるクリミア編入は、中長期的に世界情勢を見たとき十分予見できたはずの米国一極集中の退潮→世界の多極化という流れを端的に示したもので、その点では起こるべくして起こった出来事である。短期的にウクライナをめぐる事態は予断を許さないが、一方で日米欧が再び「西側」として責任ある先進国の枠組みを形成し、今後の世界秩序をどう維持していくかを議論する貴重な機会としなければならない。

世界秩序の変化示す
ロシアのクリミア編入

 ロシアの今回の動きを、“新冷戦”構造の誕生だという向きがあるが、これは皮相的な見方であろう。

 1989年のベルリンの壁崩壊後、いわば米国一極主義の力に任せた形で、米欧側はポーランドやバルト3国をNATOあるいはEUに加盟させ、欧米の勢力圏を史上かつてない範囲にまで東方に拡大させてきた。しかしこれは、ロシアの側から見るとプーチン氏ならずとも、東欧へ押し込んできた米国や英仏などは、その視線の先に「次はウクライナ、ベラルーシ、そして─」と意図している、と見るのが必然であり、それだけは何としてでも阻止しようとロシアはかねてから考えていた。そうした過去20年ずっと続いてきた欧米とロシアの水面下でのせめぎ合いがついに大きく浮上したのが今回の一連の動きだったのである。

 しかし、今やことは21世紀の世界秩序の是非に絡む理念問題となっており、そのため日本としても尖閣問題を抱えている以上、「力による現状変更」の広がりには特に厳しく対処する必要があるのである。

 それでは欧米、特に米国はこうしたロシアの動きに対して軍事的な制裁など、経済制裁以上の鉄槌を下すことはできるのか。今回クリミア編入を事実上看過し、さらに東部ウクライナがロシアの軍事力によって脅かされるという現在の事態に至っても決定的な対応をできていない姿を見るにつけ、オバマ政権の弱腰ぶりをひときわ深刻に感じざるを得ない。

 これは昨年のシリア問題の解決に至ったプロセスを思い起こさせる。シリアのアサド政権が化学兵器を使用したことに対して「レッドライン」、すなわち必ず懲罰的な軍事制裁をするとオバマ氏はあらかじめ表明しながら、「やっぱりやめておきます」とあっさり撤回。そこにシリアのアサド政権を抑え込んでいるロシアから“解決案”を提示されて、かろうじて米国のメンツをプーチン氏が立ててくれた形となった。

 たしかに、ロシアは米欧が一体になって強力な経済制裁に出てくることを恐れている。しかし、ロシアにとってウクライナ問題は国家として死活に関わる重大事だ。プーチン氏が経済制裁に全面屈服することは決してあり得ないだろう。また、そもそもドイツなどロシアとの経済関係を重視する欧州側が強力な対ロシア制裁に応じるかは疑問だ。ウクライナ情勢はよくて長期化し膠着する見通しが最もあり得るシナリオであろう。

プーチン大統領は次なる戦略をいかに描いているのか─。
(提供・代表撮影/AP/アフロ)
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