2025年12月5日(金)

教養としての中東情勢

2025年8月20日

 フランスや英国、カナダの主要7カ国(G7)がパレスチナ国家を承認する方針を発表したのも痛かった。パレスチナ国家は約150カ国がすでに承認しているが、G7メンバーの承認はインパクトがあった。

 オーストラリアやニュージーランドがこれに続いた。日本が煮え切らない態度を取っているのは残念だ。

深刻化する飢餓

 絶頂期にあった首相の人気がこうも急速に凋落すると予想した人々は少なかった。「ネタニヤフはガザの人道状況とそれを報じるメディアを甘く見た」(識者)。

 ガザの飢餓報道は「飢餓はない」と強弁する首相を追い込んだ。飢餓で死亡した子供らは200人を超え、やせ衰えた子どもたちの映像は世界にショックを与えた。米国のトランプ大統領ですら「飢餓はある」と認めた。 

イスラエルの封鎖下で食料危機に直面するパレスチナ人に対し、慈善団体が食料を配布する(Anadolu/gettyimages)

 ニューヨークタイムズによると、3人に1人が数日間食べ物を口にしていないという。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)などによると、ガザ市で急性栄養失調と診断された5歳未満の子どもの数が7月は3月に比べ3倍以上に増え、約1万2000人に達した。

 しかも、5月以来、食料配給所付近でのイスラエル軍の攻撃が相次ぎ、1000人以上が死亡した。食料を求める住民を故意に狙い撃ちしているとの非難も高まった。

 ガザへの食料配給は米国とイスラエルが主導する「ガザ人道財団」が行っているが、配給所は4カ所しかなく、国連が行っていた時の200カ所から急減した。配給所にたどり着くためには、戦闘地域を含め何十キロも歩かねばならず、また空中投下の食料をいち早く手に入れるためは体力が必要だ。

 結局のところ、体力があるものだけが食料を入手できる「弱肉強食」状態が生まれることになった。「ガザ人道財団」の活動は機能しなかった。

 ネタニヤフ首相は攻撃を一時的に制限して国連の人道支援トラックの搬入を認めたが、食料はガザ全体に十分に行き渡っていない。ハマスや共闘する過激派「イスラム聖戦」は最近、飢えに苦しむ人質の動画を公開し、イスラエルに揺さぶりをかけた。

 ガザ市制圧計画に向けて住民の退避が始まれば、大混乱になるだろう。人質の安全は必ずしも保証されない。

 「政権を維持するためには戦争を続けるしかない」(識者)。制圧計画はネタニヤフ首相の政治延命の道具にされる公算が強い。

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