2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年8月25日

 この戦争が最終的に終結した暁には、その解決方法が旧ソ連諸国間の関係を形作り、欧州の安全保障体制の将来を決定づけることになる。ロシアが弱体化すれば、東欧やコーカサス諸国は欧州連合(EU)やトルコへの傾斜をさらに強める可能性がある。逆に、戦争がロシアに有利な形で終結すれば、モスクワによるこれらの地域への支配力が強まる可能性がある。

 どちらのシナリオも、地域における新たな緊張や紛争のリスクを伴い、各国と中国との関係を緊張させ、中国にとってさらなる頭痛の種となる可能性がある。

 中国は、予期も歓迎もしなかった戦争において、中立、あるいは受動的な姿勢を保とうとしてきた。しかし、このアプローチは緊張を緩和させていない。むしろ、中国の意に反して、この戦争は中国、ロシア、米国、そして欧州の大国間の対立をさらに深めてしまった。

 この結果から利益を得た国は誰もいない。しかし戦争が終結するまでは、誰も方針を転換できない可能性が高い。

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中国にとっての利益

 本論説は長文にわたるが、要するに中国がウクライナ戦争の終結のために果たす役割は非常に小さいということに尽きる。論説の論旨には総じて賛同できる。その上で、政策論的観点から、以下の点を付け加えておきたい。

 第一は、要するにウクライナ戦争の仲介役を中国に求めてはならないということである。ウクライナ戦争開始初期の頃、西側において、戦争終結のために中国の果たす役割に期待が集まった時期があった。彼らが中国に期待していたのは、基本的にロシアを説得することであった。しかし上記論説にもある通り、このアプローチは機能しないし、実際中国は紛争解決に向けて努力するふりはしても、実効性のある措置をとることはなかった。

 中国がウクライナ戦争について曖昧な態度を取り続けているのは、いずれか一方の立場をとることができないからというより(そうであれば中立的な役割は可能)、いずれの側から得られる利益も逃したくないという立場をとっているからである。このような国に紛争の仲介役を期待することはできない。

 第二に、とはいえ突き詰めれば、ウクライナ戦争において中国はロシアの側に立つことの利益の方が大きいと考えていると正しく認識すべきということである。端的に言えば、この戦争が仮にロシアによるウクライナの完全な支配で終結しそうになっても、中国はロシアとの関係を壊してまでそれを止めようとはしないだろうが、ロシアが敗北してプーチン体制が大きく揺らぐような事態になれば、これを防ぐ形で介入しようとするだろう。


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