上記の論説にもあるとおり、ウクライナ戦争がどのような形で終結するかは欧州、ひいてはアジアを含むグローバルな安全保障環境に大きく影響する。そのような中で中国に戦争終結にかかる役割を果たさせるならば、結局のところロシアと中国にとって望ましい形で終結させようとすることは目に見えている。わざわざ戦後秩序の決定プロセスに中国を関与させて、欧州等にとって好ましくない秩序形成の手助けをする必要はない。
低下するウクライナの中国への期待
最後に、本論説はウクライナ戦争に対する中国の行動が欧州の対中認識に大きな影響を与えていることを述べているが、中国に対するウクライナの期待感も、これにやや遅れる形で大きく低下してきたことを付け加えておきたい。これは中国によるウクライナの軍事技術取得等を阻止する上で重要な要素である。
ウクライナの中国に対する期待感は、欧州のそれより長く続いた。それは一つには「国際連合安全保障理事会の常任理事国(P5)の一員でロシアと良好な関係にある中国」にはロシアを抑えることができるかも知れないという期待感であり、もう一つはウクライナとのビジネスや復興支援協力に対する期待感であった。
ウクライナは中露の軍事協力についてはずっと以前から認識していたのだが、上述の期待感からこれを表立って非難することは控えていた。ところが本年4月、ウクライナはこの戦争で中国の戦闘員がロシア側に立って戦っていることを知り、これが大きな転換点となった。これ以降ウクライナは、ロシアのイスカンデル・ミサイル生産への協力を理由に中国企業に対し初めて制裁を科し、中国による対露軍事協力を公に非難するようになったのである。
