2025年12月14日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年9月2日

 8月からは映画「東極島」も公開された。これは日中戦争の際、東シナ海に面した東極島の沖合で、旧日本軍の輸送船がアメリカの潜水艦に撃沈され、大勢のイギリス人捕虜が海に投げ出されたが、それを中国人の漁民が救出したというストーリーだ。

 柳条湖事件が起きた9月18日からは、抗日映画の第3弾として、映画「731」が公開される予定だ。「731」はもともと「東極島」よりも前の7月31日に公開されることになっていたが、明確な理由が公表されないまま9月18日に延期された。

 「731」は旧日本軍が戦時中に旧満州(現在の中国東北部)で作った秘密の機関で、細菌兵器の研究などを行ったとされた731部隊のこと。公開前だが、中国メディアによると、残虐なシーンが多くあるという。3本の映画の中で、最もインパクトが強いという情報もある。

軍事パレードがSNSのトレンド入り

 これらにより懸念されるのは中国人の反日感情の高まりだ。すでに「南京写真館」を見た子どもが泣き叫んで抗日を訴える動画やコメントが中国のSNSに多数投稿されている。9月3日の軍事パレード当日には早朝から同報道に注目が集まることは必至だ。そうしたことから、冒頭で紹介したように、在中日本人の間でも緊張感が高まっているが、そこまでして中国政府が軍事パレードに力を入れる背景にあるのは何なのか。

 予想されるのは、まず、習氏の求心力を高め、中国共産党の正当性を国内の人々に強調することだ。2020年の新型コロナウイルスの流行以降、不動産不況などもあり、中国の経済は悪化の一途を辿っている。それに伴い、失業者が増え、社会に対する不安や不満が高まっている中で、ともすれば不満の矛先が政治、つまり習氏へと向かう可能性もある。

 そうした不満を一掃するために、政府は国民に中国の軍事力を見せつけ、中国共産党の正当性を国民に見せる必要がある。不満が国家や党に向かないために、愛国心やナショナリズムを煽るために行うということだ。

 実際、中国のSNSでは「93閲兵」(9月3日の軍事パレードのこと)はこの数日間ずっと、トレンドの上位に入っており、非常に注目度が高い。ふだん、政治にあまり興味を持たない人々も、映画「南京写真館」のヒット以降、まるで大きなお祭りの開催でも待ちわびるように、この日を半ば「楽しみに」している人も多い。

 むろん、その人々は必ずしも、軍事パレードと抗日、反日を結び付けているとは限らないが、勇ましい軍人の行進を見て「我が国はすばらしい」と感じ、「気分が高揚する」「スカッとする」という人は多い。


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