事件事故や職場でのハラスメント、SNSでの誹謗中傷……。私たちの身の回りにはトラブルの種が多く、いつ巻き込まれるかわからない。
そんな困りごとに大きくかかわるのが法律だ。「法治国家」である日本においては、法律を知っておくことが自らを守ることにつながる。
法に関する身近な疑問をやさしく解説した入門書『はじめまして、法学 第3版』(中央大学法学部教授/遠藤研一郎・著)から一部抜粋した記事を紹介します。
<目次>
・賛否呼ぶ「刑法39条」…悲惨な事件が報道される度に問われる「刑事責任能力」とは(2025/07/30)
・せっかくのアイデアが無駄になる?技術の独占が社会に不利益をもたらす「アンチ・コモンズの悲劇」とは(2025/07/28 )
・職場での嫌がらせ、いじめの相談が急増?多様化する「ハラスメント」と労働法の現在(2024/06/19)
・「軽い気持ちで書き込んだことが…」なくならない誹謗中傷、「表現の自由」として認められないケースとは(2024/06/05)
・「借りた家が訳アリだった…」重要事項の申告漏れが引き起こすトラブルとは(2024/06/07)
賛否呼ぶ「刑法39条」…悲惨な事件が報道される度に問われる「刑事責任能力」とは
ご存じのとおり、犯罪に関する基本法は、刑法です。明治40(1907)年に公布、翌年に施行されました。
刑法上では、さまざまな犯罪類型が規定されています。法的に保護しなければならない何らかの利益(法益)がある場合、この法益を侵害する行為を「犯罪」として禁止しているのです。
犯罪を大きく分けると、①個人の利益を侵害する犯罪、②社会・公共の利益を侵害する犯罪、③国家自体の利益を侵害する犯罪に分類することができます……
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せっかくのアイデアが無駄になる?技術の独占が社会に不利益をもたらす「アンチ・コモンズの悲劇」とは
かつて「黒革の手帖*1」というテレビドラマがありました。原作は、松本清張の長編小説です。地味なOL・原口元子が、巨額の金銭を横領して、クラブのママに転身。銀座でのし上がっていきます。その時に、元子が武器にするのが、「手帖」です。ただし、手帖自体は、それほど価値があるものではありません(まぁ、革製品なので、そこそこするとは思いますが…笑)。
むしろ価値があるのは、その手帖の中に書かれている情報。1冊目の手帖には、架空名義の口座の情報。2冊目の手帖には、脱税の情報。元子はその情報で、地位や名誉のある相手を強請り、次々と多額の財産を手に入れていきます。そして3冊目に──。
情報というのは、厳密な意味で、「物」ではありませんので、所有権の対象にはなりません(物とは、固体・液体・気体を問いませんが、空間の一部を占めて独占可能な「有体物」を意味します。民法85条*2)。しかし、時として、誰もが手に入れたくなるようなとても価値の高い情報もあります……
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職場での嫌がらせ、いじめの相談が急増?多様化する「ハラスメント」と労働法の現在
Aさんは、インターネットサービスを運営する会社に勤務し、WEB開発業務を担当していました。新しいプロジェクトの開発リーダーを任されることになった12月頃から、労働時間が以前よりも急激に増加し、月100~120時間の残業が続くこととなりました。
翌年の4月からは、徹夜や数時間の仮眠をとるのみで働き続け、時間外労働(残業)は月200時間に達していました。ある日Aさんは、仕事中に、くも膜下出血を発症して倒れ、なんとか一命はとりとめたものの、右半身まひの後遺症が残り、その後も復職できていません。
このような事件は、よく耳にすることです。世界から日本人は働きすぎだと言われ、ニュースなどでもことあるごとに、働き方の見直しを訴える特集が組まれています。大手広告代理店の新入社員が、2015年末に過労による自殺をしたニュースは、記憶に新しいかもしれません。それでも、状況が劇的に改善されたという話は聞きません。
次の図表を見てください。業務における過重な負荷により脳血管疾患または虚血性心疾患等を発症したとする労災請求件数は、過去10年余りの間、毎年、700~900件ほどあります。その中で、支給決定(認定)件数も、200~300件程度となっています……
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「軽い気持ちで書き込んだことが…」なくならない誹謗中傷、「表現の自由」として認められないケースとは
名誉毀損について触れておきましょう。
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
私たちには、憲法上で、表現の自由が保障されています。これは、人間の精神活動に関する自由で、憲法の基本的人権の中でも、とくに重要な人権の1つとして数えられています。
まず、表現の自由は、表現活動を通じて、人は他人と意見交換をし、自己の人格を発展させることができるという側面(「自己実現」という価値)を有しています。また、国民が表現活動を通じて政治的意思決定に関与するという意味において、民主主義の実現のためにも、表現の自由は不可欠です(「自己統治」という価値)……
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「借りた家が訳アリだった…」重要事項の申告漏れが引き起こすトラブルとは
家を借りることは、賃貸借契約という契約を締結することを意味します。賃貸借契約には、たとえば、レンタカー、レンタルDVD、貸衣装、貸金庫など、さまざまな例があります。中でも、家の賃貸借は、居住空間を確保するという意味において、私たちの生活にとても重要な契約類型です。
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
家を借りる際には、不動産会社が仲介に入る場合も少なくありません。不動産会社には、たとえば以下のような物件ごとの広告がたくさん掲示されていますね。借主は、自分に合う物件をそこから選んで契約をするのです……


