2025年12月5日(金)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2025年9月15日

NOVA分類の変遷

 モンテイロ教授は11年にNOVA分類を国際的な学術誌で発表した。それは次のような3分類である。

グループ1:未加工・最小加工食品(調理して食べる食品)
グループ2:調理用・工業用素材(砂糖、油脂、小麦粉など)
グループ3:超加工食品(すぐに食べられる、または温めるだけの工業製品)

 NOVA分類は国際的に注目され、この分類を使って生活習慣病との関連を調べる研究がいくつか行われた。しかし、批判も多かった。それは定義があいまいで、何をもって「超加工食品」とするのかが不明確であること、「高脂肪・高糖質だから悪い」という従来の栄養学の常識との関係が不明なことなどである。そこで16年にモンテイロ教授はNOVA分類を大幅に改訂した。

 主な変更は、「加工食品」(家庭での調理のように比較的単純な加工)という新たなグループを追加したことである。その理由は、家庭での調理などの伝統的な加工と、工業的な調合(超加工)とを区別することで、「すべての加工が悪ではない」ことを明確にするためである。

 その結果、新たな分類は次のようになった。

グループ1:未加工または最小限の加工の食品・生鮮食品など
グループ2:調理用素材・植物油、バター、砂糖、はちみつ、食塩など
グループ3:加工食品・野菜や魚の缶詰、塩漬けナッツ、シロップ漬け果実、チーズ、パンなど
グループ4:超加工食品・菓子パン、スナック菓子、カップ麺、炭酸飲料、ハム、マーガリンなど

 もう一つの重要な変更は、超加工食品の定義を明確にしたことである。それは、①「開封してすぐ食べられる」「加熱だけでOK」といった利便性を最重視して設計されていること。②香料、甘味料、乳化剤などの添加物を駆使し、人間が持つ食欲制御システムを超える強い嗜好性を持つよう設計されていること。そして、③製造者にとって利益率が高くなるように設計されていることである。

 この3点は、加工食品が世界に広がった理由なのだが、NOVAの定義に企業の経済戦略そのものを組み込んだことが、改めて「非科学的」という議論になった。

生活習慣病との相関が高い理由

(peakSTOCK/gettyimages)

 超加工食品と生活習慣病の関係に関する研究を取りまとめたのが、24年に英国医師会雑誌(BMJ)に掲載されたレビューである。その結論は、超加工食品と心血管疾患関連死亡および2型糖尿病のリスク上昇との関連の可能性が高く、総死亡、心疾患関連死亡、うつ病のリスク上昇との関連は多少高いが、心血管疾患の発症、高血圧、がんとの関連はそれほど高くないというものだ。

 それでは超加工食品はどのようなメカニズムで生活習慣病を引き起こすのだろうか。その一つが「食べやすさ」である。

 超加工食品は一般的に高カロリーである一方で、食感が柔らかく、咀嚼の必要性が低い。そのため、未加工食品と比較して食べる速度が速くなる。つまり、満腹を感じたときには、必要以上のカロリーを摂取しているのだ。米国国立衛生研究所(NIH)の試験では、超加工食品を食べる速度は、未加工食より速く、結果として1日平均508キロカロリー多く摂取し、体重が増加した。


新着記事

»もっと見る