2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年9月19日

 グロッシー事務局長は、イスラエルと米国のイラン核施設への空爆は重要であり、核施設に相当なダメージがあったとしているが、核物質が核武装に用いられていないことを確証するためには、完全な査察の再開が非常に重要となる。しかし、イランが高濃度の濃縮ウランを移動させておらず、ほとんどは攻撃された核施設にあるという見方を否定する証拠は無いとも述べている。

 IAEAの査察官のイラン入国は、イランがスナップ・バック(制裁再開)を科されるのを回避するために欧州諸国が課した3つの条件の一つだが、イラン側は、2018年に米国がJCPOAから脱退したことによりスナップ・バック条項は無効になっていると主張している。

 欧州外交筋は、欧州側は早ければ8月28日か29日にスナップ・バックの手続きを開始するとしたが、イラン側から実質的な立場の変更はなかったと述べている。制裁手続きが再開されれば、制裁が再開するまで30日間あり、その1カ月の間にイラン側とその同盟国は、永遠ではなくとも数カ月間制裁を遅らせるためにより真剣に交渉することになるだろう。

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査察を絶対に避けたいイラン

 「スナップ・バック」とは、安保理決議2231号でJCPOA参加国によるコミットメントの著しい不履行があったとの通報が安保理になされれば、安保理は30日以内にJCPOAで停止されている累次の対イラン制裁の停止を継続するための決議案を採択しなければならないとしている規定のことである。

 この規定の巧妙なところは、制裁停止を継続するための決議案であるから、イランの同盟国ともいうべきロシアと中国は安保理常任理事国の特権である「拒否権」で対イラン制裁再開を阻止できない点だ。8月28日、欧州諸国はイランの不履行を安保理に通報した。

 イラン側は、イスラエルと米国の空爆を受けた3カ所の核開発施設(ウラン濃縮施設)へのIAEAの査察は絶対に避けたいところだろう。ダメージが米国の主張するような大きなダメージでない場合は、再度のイスラエルの攻撃を招き、実際に深刻なダメージだった場合は、潜在的核兵器保有国としての抑止効果が薄れてしまうからだ。


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