住宅価格が高騰する裏で
起きている「奇妙な現象」
現在、進行しているとされる住宅価格の高騰は、住宅の資産性に注目した、「投機」のような需要によって引き起こされたのだろうか。
日本では、長い間「土地神話」があったとされる。図1には「土地は有利な資産か」という問いに対して、「そう思う」と回答した者の割合と、1993年の住宅地の地価公示価格を1とした場合の指数の変化を示している。バブル崩壊を経て地価下落が長時間継続することで、資産としての不動産に強い選好を示す傾向は大きく減少している。
一方、2000年代後半以降、東京圏での地価上昇が加速している様がみてとれる。大都市圏、特に東京圏に人口流入が継続的に起きていたことは、紛れもない事実である。コロナ禍でその流れは一時反転したが、終息とともに、大都市圏とその都心への人口流入は元に戻っている。
つまり、大都市圏の都心部には現在、住宅に対する大きな「実需」が発生しているのである。
さらに国際不動産投資の動きをみてみよう。不動産サービス大手の米ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)のデータをみると、25年第1四半期のニューヨーク、ロンドンなどを含む世界の主要都市の中で不動産投資額が最も大きかったのは東京であった。
今回の住宅価格高騰は、1990年代に起きたいわゆる「バブル」に基づくものではなく、「不動産投資のグローバル化」と「世界的に進んでいる大都市(スーパースター都市)化」を背景としたものだろう。
産業構造転換に伴い必然的に大都市化が起きていること、人口減少が進む日本ではグローバルなヒト・モノ・カネの受け入れを進めざるを得ないこと、そもそも不動産投資から「投機的」なものを切り分けることが非常に難しいことなどを勘案すれば、「アフォーダビリティー・クライシス」への対応として「バブル期」に行われた「投機的取引を抑制する」様々な強い介入は、いわゆる角を矯めて牛を殺すことになりかねない。
次に、日本で起きている「奇妙な現象」に注目しよう。東京圏において、空き家住宅が89.8万戸、うち賃貸・売却用および二次的住宅を除く空き家が21.5万戸も存在している。東京圏の都心からの距離帯別に18~23年にかけて、どのような住宅が増加したかを図2でみてみよう。
都心から0~10キロ・メートル(㎞)圏内では二次的住宅、賃貸、売却用の空き家、10~20㎞圏内では放置されたその他空き家の増加率が際立って高い。30㎞以遠の距離帯でもその他空き家が大きく増加している。つまり、スーパースター都市化し、国際不動産投資を引き付けている東京圏、その都心部で、「住宅価格高騰」と「遊休資源の増加」という非効率な状況が同時に起こっているということだ。
なぜ、大都市に旺盛な需要と遊休不動産が併存しているのか。0~10㎞圏内の二次的住宅、賃貸、売却用空き家の増加は、「グローバル投資も含めた東京への不動産投資」が原因の可能性が、高齢化が進む10~20㎞圏内では、相続に伴い放置される空き家の大量発生をもたらしている可能性がそれぞれ考えられる。
日本では高齢者に過剰な不動産を保有させてしまう傾向があることが指摘されてきた。背景には、不動産で相続させた方が税制上有利な構造があることや、中古住宅市場が機能していないため、高齢者が子供の巣立った広すぎる住宅を適正な価格で売却できないこと、強すぎる借家人保護が行われているため、賃貸化もできないことなどが挙げられる。



