結果として、亡くなるまで住宅を抱え込ませるような構造が日本には存在する。その場合、住宅価格が上昇している地域でも、高齢者の死亡とともに、遊休化した空き家が大量に発生する。
空き家を市場に戻すために
必要な住宅政策とは
「アフォーダビリティー・クライシス」に対して、現在、様々な意見が交わされている。その中には、外国人の不動産保有に対する規制、転売禁止など投機的取引の抑制や、タワーマンションの総量規制など、東京の都心への投資を抑制する効果を狙ったものも含まれる。
タワーマンションの管理不全によって、住環境が悪化してしまう可能性があることについては、真剣な議論が必要だが、日本の生産性を維持し、国民の豊かな生活を維持するためには、大都市へのヒト・モノ・カネの流入を人為的に抑制することは避けるべきだろう。
国民や社会にとって深刻な事態を招来する可能性の高い問題に絞って、「遊休資源が存在する中の価格高騰」といった明らかに非効率な状態を是正することに政策資源の投入を集中させるべきではないだろうか。
大都市の住宅価格が高騰することで、大都市機能の維持を担うエッセンシャルワーカーや日本の未来を担う学生などの人材がクラウドアウトされてしまう可能性がある。これまで日本では、大都市において人材と企業の効率的な「マッチング」を行うことで、人々の生活の質や生産性を向上させてきた。このような大都市の機能は引き続き維持していく必要がある。
そのためにとるべき対応は、外国人の不動産保有制限でもなければ、非常に困難な投機的取引の規制でもなく、大量の遊休資源と価格高騰の併存という非効率な状況を改善することだろう。つまり、住宅供給を増やすため、供給がひっ迫している地域に存在する空き家を住宅市場に戻す策を講じるべきだ。
日本の空き家対策は現在、管理不全の「放置されている空き家」のみが対象だが、フランスやカナダで実施されている「アンダーユースドタックス」のように、放置された空き家だけでなく、投資家などが保有する住宅にも空き家税を課すことも一案だ。神戸市で検討されているタワマン空き部屋課税も興味深い。
日本では、住宅用地であれば固定資産税が6分の1に軽減される特例措置があるが、そうした(優遇)措置をやめたとしても、住宅の供給は増えてくるだろう。
さらに「高齢者に死亡時点まで住宅を抱え込ませることが有利な環境」を作り出している相続税制、中古住宅市場の機能不全、借地借家法による行き過ぎた借家人保護を改善し、高齢者の住宅資産を市場に戻していくことも検討すべきだ。
今後、日本全体の人口減少は避けられない。だが、東京圏をはじめとした東名阪などの大都市圏への人口流入はこれからも続いていく。もちろん、地震を含む災害リスクの観点から東京一極集中に関して真剣な議論は必要だろう。しかし、21世紀の日本にとって必要なことは、我々の暮らしの根幹である一次産業の創出源として地方が持つ力や多様性を重視しつつも、「大都市化」を前提として住宅政策を考えることだ。
人々の生活と生産性を向上させる「マッチング」をはじめとした都市機能が持つ「強み」を持続可能なものにし、日本の成長のエンジンにしていくことが求められている。
