資産ある高齢者は消費増税に反対する
さらに、別の視点としては、賃金税よりも消費税が優れている理由として、つまり、消費税が嫌われる理由として、経済のストック化を挙げられる。
つまり、金融資産を保有する家計が増えれば、課税ベースとして金融資産を含めて考えるべきなのだが、金融資産は移動が容易であることもあり、また把握が難しいこともあって、金融資産に直接課税しようとするなら、脱兎の如くに海外流出が起きてしまうだろう。
実は、金融資産に直接課税するのではなく、消費に課税することで、全く同じ効果とは言えないものの、少なくとも賃金税よりは多く税を確保することができる。
今、A氏は賃金所得を100稼ぎ、金融資産は0、B氏は賃金所得は0だが、金融資産を100持っているとしよう。A氏、B氏ともに消費に50回す場合を考えてみる。
賃金税率が20%の社会では、A氏は20だけ税を負担することになるが、B氏は賃金所得が0なので税負担は0である。
一方、賃金税率は0%とする一方で、消費税率が20%だとすれば、A氏、B氏とも消費税負担額は10となる。
このとき、税制変更の前後ではA氏の税負担は20から10となり10減るのだが、反対に、B氏の税負担は0から10に増えることになる。
このように、資産(ストック)があって所得(フロー)が少ない場合、賃金税はほとんど負担しなくても済むのに対して、消費税であれば所得だけではなく資産も含めた「使えるお金」に対してきっちり負担させることが可能となる。しかし、であるからこそ、先のB氏は消費税に反対するはずだ。
世代内、世代間における資産の集積度合いの違いが格差社会を生んでいることを考えると、ストック化社会において、明らかに消費税が賃金税よりも優れているのだが、現在の高齢世代はすでに資産形成を終えていて、日本全体の資産の6割以上を占有しているので、やはり高齢世代が消費税に反対することになるのだ。
サービスは受けたいが、コストは負担したくない
高齢者をはじめとして、消費税により負担が増加する人たちは、これ以上の消費税引き上げを阻止できるなら、「消費税は法人税減税の穴埋め」「消費税は逆進的」「消費税は景気を冷やす」等理由はなんだって構わない。
そして、そうした「声の大きい」高齢世代の意向を反映して政治が消費税減税や廃止を主張し、票の上積みを目録むのだ。
政治は票が取れればやはり理屈はいらず、「ダメなものはダメ」ととにかく感情に訴えれば勝ち。国家運営や声なき声、すでに生まれてはいるが投票権を有しない18歳未満の0票世代に対する責任感が欠落している。
消費税への反対が全国民的に根強いのは、社会保障給付や行政サービスは受けたいけれど、そのコストは、自分以外の誰かが負担してほしいと思っている者が多い現状を映し出しているとも言えるのかもしれない。
しかし、「自分以外の誰か」というのは、賃金税を負担する勤労世代であったり、赤字国債の実質負担者となる子や孫であったりということなのだが、高齢世代はそうしたことには思いが至らないのであろう。
