これに対し本件論説に言う「反核保有国」の側は、対話を基本とし、核開発の抑制に対して何らかのベネフィットを付与する形の外交的アプローチをとった。このやり方は当該国の核開発プロセスを遅らせることはできても、阻止することはできない。北朝鮮の場合にあっては明らかに失敗し、イランの場合も最後は軍事力の行使によって抑えなければならなかった。
北朝鮮にせよイランにせよ、核開発は自国の安全保障にとって不可欠との戦略的判断に基づく行為であって、そのような判断の原因となった戦略環境が変わらない限り、対話によってこれを変更させることはもともと不可能である。北朝鮮やイランが行ってきたのは核開発プロセスの「調整」に過ぎなかった。
核拡散を真に防ぐためには、核保有でなければ対処できないような、当該国が有する安全保障上の懸念を取り除くか、あるいは軍事的威嚇等を含む「力」によるしかない。しかもそれは核開発計画の初期段階で行われなければならない。これが北朝鮮、イランの例から得られる「反核保有国」側にとっての教訓に含まれるであろう。
核不拡散の問題を論ずる場合には、「同盟国に対する米国の拡大抑止」の問題と核拡散の関係にも触れる必要がある。
重要な米国との信頼関係
本件論説に「核保有国を目指している国々」としてポーランド、韓国を含めて論じるくだりがあるが、これらは米国の同盟国である。ロシア、中国、北朝鮮といった核保有国による脅威が増大しつつある中にあって、これらに隣接する国は確実な核の傘の提供を強く求めている。
現時点においては、一部の論者を除きこれらの国が自前の核保有に向けて実質的な動きを示しているという兆候は見られず、最大でも米国に対する核シェアリングの要請までにとどまっている。
しかしながら米国の力の相対的低下と、特にトランプ政権第二期において一層強化されつつある同盟・パートナー国の負担分担拡大に対する圧力は、ロシア、中国、北朝鮮による核戦力の強化という安全保障環境の変化の中で、米国の同盟・パートナー国による核保有に向けた潜在的な意思の醸成に繋がる可能性を有している。
拡大抑止の核心は信頼感であり、核保有国の同盟国に対する拡大抑止を揺るぎないものとすることも不可欠である。
