2025年12月5日(金)

Wedge OPINION

2025年9月29日

 台湾・台北の松山空港を飛び立ったプロペラ機は50分ほどで馬祖列島の南竿空港に降り立った。馬祖列島には他に北竿、東莒、西莒、東引といった島々がある。

敷設船内のタンクに巻かれて積み込まれる海底ケーブル(THE ASAHI SHIMBUN)

 馬祖列島が特異なのは、中国大陸への近さである。13キロ・メートルほどといわれる海を隔てた先にあるのは中国・福建省の福州市である。同市は習近平国家主席が6年にわたって党委員会書記を務めた場所だ。

 農村の市場化について博士論文を書いた習氏が海洋に目覚め、台湾への思いを強めた地が福州市だといわれている。しかし、金門の島々と並んで馬祖の島々は台湾が統治している。

 この馬祖列島と台湾本島を結ぶ海底ケーブル2本が、2023年2月の1週間のうちに次々と切れる「事故」が発生した。馬祖の人々は列島の外の人たちとの通信が難しくなり、クレジットカードの決済などができなくなった。バックアップで用意されていたマイクロ波による台湾本島との通信で最低限の連絡をとることはできたが、海底ケーブルの欠落をカバーできるほどの帯域はなく、ケーブルの復旧を待つほかなかった。

 両島を結んでいるこの海底ケーブルは、海で隔てられた地域同士の通信をつなぐため、世界各国で敷かれている光ファイバーの通信網である。千葉県南房総市の千倉や茨城県南部は、米国西海岸から直線距離で最も近いため、海底ケーブルを引き揚げる陸揚局が設置されている。

 米国から送られて来る信号の一部は日本国内に入り、その他はアジアの他の国々に送られていく。逆に、アジアや日本から米国への信号も海底ケーブルを通っていく。現代の大量のデジタル信号を送受信するために不可欠のインフラが海底ケーブルだ。

 冒頭の「事故」について、ケーブルを切ったのは中国の貨物船と漁船だとされている。海底のケーブルを錨で引きずったり、底引き網で引いたりした。

 引きずられたケーブルの中心にある光ファイバーが断線して通信ができなくなった。ところが、地元の人たちは、海底ケーブル切断にそれほど慌てなかった。海底ケーブル切断は毎年のように起こっており、日常茶飯事だからだ。地元紙の報道では、最初に海底ケーブルがつながった1992年から2013年7月までの間に44回の海底ケーブル切断事故があったという。


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