2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年10月9日

 韓国は、欧州各国や北大西洋条約機構(NATO)との外交・安全保障関係の強化を模索している。欧州各国の首脳はウクライナ情勢を懸念しており、韓国もNATOの行動にまだ安心できていない。また、韓国はアジアの同盟国たちに対する米国のコミットメントの強化を期待して、日本との協力強化も進めている。

 岐路に立たされている今、新たな方向性を見出す可能性がある。同時にそこでは、致命的な事故が発生する可能性もある。韓国の指導者たちは、前者を実現したいと考えている。

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米国による措置

 韓国が、少なくとも朴正煕大統領時代に自前の核保有を模索していたことはほぼ確実とみられているが、その後の歴代政権には同様の活動を示すものはほとんどない。それが約半世紀経って、2022年に政権をとった尹錫悦大統領は自前の核保有の可能性を示唆する発言をし、話題になった。

 同大統領は自前の核保有ではなく核シェアリングを望んでいたようだが、最終的には米国との調整の結果、以下のような措置をとることで米国の拡大抑止の信頼性を高めることとなった。これらは全て、韓国に独自の核開発をさせないのみならず、米国の戦術核配備も行わないことに対応した措置である。

① 核の運用に関する定期協議の場として、NATOの核計画グループ(NPG)に倣って、核協議グループ(Nuclear Consultative Group: NCG)を創設。

② 弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を韓国に派遣し、その事実を公表する。そもそも隠密を旨とする潜水艦の行動を公にすることは異例であるが、敢えて公言することで北朝鮮に対する抑止とする。また戦略爆撃機の韓国への着陸も実施し、同様の効果を狙う。

③ 朝鮮半島における核抑止力の適用に関する共同演習・訓練活動を改善する。これを受けて24年9月には初の机上シミュレーションが行われ、本年9月15日からは李在明政権になって初めての核・通常統合図上演習(CNITTX)「アイアンメイス」が実施されている。

 今日、「実用外交」を掲げる李在明政権が核抑止にかかる戦略をどのように打ち立てるかは現時点で明らかではない。しかしながら、これまでの対日、対米関係にかかる言動を見る限り、米国との間で積み重ねてきた上記のような措置を抜本的に変えようとする強い意志があるようには見えない。


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