2025年12月5日(金)

教養としての中東情勢

2025年10月5日

 大統領選挙期間中、トランプ氏が「24時間で停戦させる」と豪語していたにもかかわらず、プーチン氏を説得できていないどころか、海千山千の同氏に手玉に取られている印象だ。ガザ戦争についてはこの2月、「ガザを中東のリビエラに」という米国所有案を発表したが、国際的には見向きもされなかった。

 米国はこれまで、ガザの終戦については「段階的な解決」を目指してきた。5月にはウイトコフ中東特使が「60日間の停戦と人質10人の解放」を軸にした提案を双方に提示。ハマスは原則同意したものの、イスラエルはハマスの交渉代表を狙って仲介国カタールを空爆し、提案をつぶした。このため米国は「停戦と人質全員の解放」という一括解決案に舵を切った。

オバマへの妬みと対抗心

 トランプ氏は米国第一主義を掲げ、高関税などの政策で世界の分断を深化させているとの評価が一般的で、平和賞には値しないという意見が多い。しかし、本人にはこの理屈がまるで分からない。世界各地の紛争の調停をこれだけやっているのにノーベル賞委員会は偏向していると思い込んでいる。

 同氏が賞に固執するのは民主党のオバマ元大統領への妬みと対抗心が大きい。オバマ氏はトランプ氏が「ディープ・ステイト」(影の政府)と非難する敵対勢力の親玉的存在だ。

 オバマ氏は2009年、「核なき世界」を掲げたことが評価され、大統領就任から9カ月足らずで受賞した。トランプ氏が「私の名前がオバマだったら10秒で受賞していただろう」と悔しがる所以だ。

 現職の大統領が受賞したのはセオドア・ルーズベルト、ウイルソン、オバマ氏の3人しかおらず、ハードルは高い。事前の予想では、ガザで報道を続行するジャーナリストらが候補として挙げられているが、トランプ氏が候補者リストに含まれている可能性は低い。

ハマス、条件付き受諾

 提案を検討していたハマスは10月3日、条件付きで受諾すると発表した。トランプ氏はSNSで「ハマスは永続的平和を受け入れる用意があると信じる。イスラエルは空爆を直ちに停止しなければならない」と述べ、珍しくイスラエル側に譲歩を求めた。ハマス側と細部を協議中だという。

 提案の内容はハマスに「玉砕」か「屈服」かを迫るもので、英BBCは「拒否する方向」と伝えていた。受け入れをめぐって組織内部が真っ二つに割れているというのが実情だ。


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