提案は20項目にわたっており、主なポイントを見てみると、双方が合意すれば、即時停戦が発効。イスラエルは解放された人質の受け入れのため「合意された一線」まで撤退し、ハマス側は72時間以内に全人質を解放する。人質は48人おり、生存者は20人とみられている。撤退の範囲は特定されていない。
武器を置いたハマス戦闘員らには恩赦が与えられ、ガザから退去を希望する者には安全なルートが保証される。イスラエル軍はガザ内外に駐留を続け、アラブ諸国を主体とする「国際治安部隊」(ISF)が展開、安全の確保に合わせてイスラエル軍がISFにガザの治安を引き継ぐという。
ハマスは戦後のガザの統治には関与できない。ガザは当面、パレスチナ人のテクノクラートが中心となる「暫定移行政府」が統治し、トランプ氏がトップに座る「和平評議会」が監督。英国のブレア元首相が補佐役となる。最終的には改革を断行したパレスチナ自治政府に統治が引き継がれる。
イスラエルはガザを占領ないし併合しない。肝心のパレスチナ国家については「ガザの復興などが実現すれば、国家への道の条件が開かれるかもしれない」と言及されているだけだ。
ネタニヤフ氏が合意後も「パレスチナ国家など作らせない」と断言している。2月のトランプ提案ではガザの住民の“追放”が前提になっていたが、今回は住民にガザにとどまるよう奨励されている。
提案は戦後のガザ統治にまで踏み込んでいるが、イスラエルの要求をほぼのんだ内容。ハマスが合意をしてもイスラエルが難癖を付けていつでも戦闘再開ができるのがミソだ。
人質を解放してしまえば、イスラエルに攻撃させないカードはトランプ氏の保証しかない。ハマスが懸念しているのもこの点で、イスラエルの完全撤退まで武装解除を拒否すると主張しているもよう。
このほか米国との協議では、イスラエル軍の全面撤退のスケジュール、武装解除の時期、戦後ガザ統治への参画などが取り上げられる見通し。ハマスに「玉砕」か「屈服」を迫ってきたイスラエルだったが、トランプ大統領の要請を受け、ネタニヤフ氏が停戦を命令した。しかし、今後ハマスが条件を繰り出して協議が難航するようだと、しびれを切らして再攻撃に転じよう。ハマスもいつまでも協議を引き延ばすことはできない。
“命綱”サウジとトルコが見限る
ハマスにとってショックだったのはトランプ氏が事前に提案をサウジアラビアなどのアラブ諸国とトルコの8カ国に示し、彼らが賛同している点だ。イスラエルに対抗できるサウジとトルコはハマスの“命綱”だったが、事実上見捨てられた形になった。イランの弱体化でハマスの孤立は一段と深まった。
サウジとトルコが賛同した最大の理由は戦争がこれ以上長引けば、中東全体が不安定化し、過激派の台頭など自国にも悪影響が出ることを恐れたためだ。今後ガザを退去するハマスの戦闘員の受け入れなどをめぐって紛糾する可能性もある。ガザに残るにしても退去するにしても、ハマスの先行きが厳しいことは確かなようだ。
