2025年12月6日(土)

日本不在のアジア最前線──教育とリテラシーが招く空洞化

2025年10月9日

結論─「技術で勝って、戦略でも勝つ」モデルへの転換

 日本企業が資源・エネルギー、モビリティ分野で生き残るためには、三つの戦略的柱が求められる。第一は、資本力と組織力の再定義、つまり米シェール革命で見たような戦略的エコシステの構築だ。資源開発やモビリティ転換は投資規模が桁違いに大きい。当然、単独での対応には限界がある。必要なのは、連合や共同出資による規模の確保、そしてM&Aやスタートアップ投資に踏み出すリスク許容度の引き上げである。

 第二は、技術優位の社会実装への接続である。電池、素材、製造技術といった日本の強みは依然として健在だが、自社完結型では十分に価値化できない。水素・アンモニアの国際サプライチェーンや、電池リサイクル、MaaSなどの全体設計に、部品供給者ではなく設計者として関与する視点が求められる。

 第三は、国際ルールメイキングと市場形成への参加。脱炭素やモビリティ標準の競争は、個別の技術力ではなくルールと市場を握るかどうかに帰結する。カーボンクレジット市場、バッテリー規格、自動運転の安全基準。こうした舞台に、国家・企業・金融が一体となって参加し、発言力を確保することが欠かせない。

 三つの柱はいずれも、従来の「個社完結の内向きの技術開発」にとどまっていては実現できない。日本企業が未来における存在感を維持するためには、エコシステムの設計者、ルールの共創者、資本市場のプレーヤーとしての役割を果たす必要がある。「仕掛け人にも買い手にもなれない傍観者」からの脱却は、単なる資本力の問題ではない。長期戦略思考、リスク許容度、オープン性、そして何より「アジア全体のエネルギー・モビリティ転換を主導する」という野心的ビジョンの有無が問われている。

 幸い、日本企業には「10~20年の長期投資を許容できる資本力」「50年以上のアジア事業実績による信頼関係」「素材科学から製造プロセスまでの統合技術力」という3つの決定的優位性が残されている。これらを活かし、「優秀な部品メーカー」から「戦略的エコシステム・オーケストレーター」への変身こそが、今後の生き残りを決する分水嶺となるだろう。

 繰り返しとなるが、「技術で勝って、戦略で負ける」という轍を踏まない──それが、日本企業に残された最後の機会なのかもしれないし、新しい国のリーダーの元で、産官学一体での実践が求められているのである。

 さて次回は、ヘルスケア・ライフスタイルという巨大セクターにフォーカスを当てる。超高齢化と再生医療の進化が同時に進むこの分野こそ、日本が「課題先進国」として世界をリードできる最後のフロンティアであるはずだ。ここでもデジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れや、硬直した規制に阻まれ、イノベーションは再び孤立していないかをしっかり考察していきたい。

 To Be Continuedである。

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