新STARTは現在すでに瀕死の状態である。同条約には、相互査察やデータの提供、核戦力を移動させる際の通知の仕組みが設けられているが、2023年、プーチン大統領は、配備済み兵器の数的制限以外の面における参加を停止した。ロシアがデータ提供を停止したことに応じ、米国も同様の措置をとった。
それ以来、同条約の期限が到来した後、どうなるのかについて公式の協議が行われていない。プーチン大統領は、9月22日の声明の際、査察やデータの共有についてどうするのかについては何も言及しなかった。
中国は、新STARTの当事国ではなく、新たな条約に加盟するようにとのトランプ大統領の示唆を拒否している。北朝鮮は核戦力の増強を止める考えはないと宣言している。
今回のプーチン大統領の提案はそうした局面でなされたものである。核問題の専門家は、「トランプ政権はプーチン大統領に対して、ヨーロッパで『悪人』として振る舞いながら、米国に対して『良い人』を演じることはできないことを明確にすべきである。米国は、核リスクを減じるための協議を追求する意思とともにウクライナにおける公正な平和を犠牲にしないという決意を示すべきである」と指摘した。
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トランプにとってもメリットとデメリット
米露間の軍備管理・軍縮の枠組みは、第一期トランプ政権時に1972年の弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)、87年の中距離核戦力条約(INF条約)が失効し、残された二国間条約としては、この解説記事が取り上げている新戦略兵器削減条約(新START)のみとなっており、同条約は明年2月に期限が到来して終了する。
同条約の規定上、一度に限り5年間の延長ができることとなっており、それを2021年に行っているので、条約自体を再延長する余地はない。それへの対応をどうするかは、軍備管理・軍縮分野における最大の懸案の一つである。
プーチンの説明は軍拡競争に至ることを避けたいというものだが、額面通りには受け取れない。この解説記事において、ロシアとして、ウクライナとの戦争による国庫への負担の増大、米国の進めるミサイル防衛計画への牽制など、隠された動機や狙いがあるのではないかと指摘されている通りである。
それでは、これに対して、トランプ大統領の側はどのように対応するであろうか。これに応じることにはメリットとデメリットの双方がある。メリットの方から見ていけば、第一に、平和の愛好者としての姿勢をアピールできる。トランプ大統領は国連総会での一般討論演説で「自分は七つの戦争を終結させた。これはノーベル平和賞に値する功績だ」と実績を誇ったが、平和の愛好者としての姿勢をアピールすることはトランプにとっての優先事項となっているようだ。
第二に、ロシアとの核関係の安定に役立つ。核兵器にかかわるさまざまな分野で新STARTがカバーしているのはその一部だが、少なくとも戦略核兵器については、当面の間、安定を期待できる。
