第三に、ロシアとの全般的な関係を改善し、個別案件を討議する環境を整えることに役立つ。トランプやその周辺のこれまでの発言からは、ロシアとの間で経済面での取引を進めるなどトランプ好みのアジェンダを進めていきたいとの意向が見え隠れしている。
「1年延長」が当面の措置か
一方、デメリットないし課題もある。第一は、中国との関係である。かねてから米国の安全保障コミュニティでは、ロシアと中国という「二つの同等の核大国」をどう抑止するかが重要な政策課題となっている。
新STARTはロシアとの間で戦略核兵器の数量を縛るもので、米国自身の数量がそれで規定される一方、核兵器の増強を続けている中国には何らの制限はかかっていない。新STARTの数的制限を延長するということは、そうした問題が解決されずに続くということになる。
第二は、整合的な対ロシア政策になるのかとの点である。米国はロシア・ウクライナ戦争でロシアに圧力を課すべく、北大西洋条約機構(NATO)加盟国にロシア産原油の禁輸を求めるなど、厳しい措置を要求してきた。一方で他国にロシアに対して厳しい政策をとるよう求めつつ、もう一方でロシアとの間で協調的な措置をとることができるのかとの点である。
トランプ大統領の行動を予測することは困難であるが、あえて予測をするならば、トランプがかねてより核兵器について「悪い投資」と見ていること、第二期トランプ政権として、核政策について十分に練るための時間が必要と考えられること、プーチン大統領との間で取引すべき案件が多いことからすれば、当面の措置として、プーチンがいう「新STARTの数的制限を実体上、1年延長」との提案に応じる可能性があると考えられる。
