2025年12月14日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年10月23日

 それよりも別種の圧力の方が効果的かもしれない。金正恩は、資本主義の民主主義国家である韓国に比べて北朝鮮の生活がいかに惨めかを自国民に示すあらゆる情報を恐れている。西側はKポップや昼メロ等のコンテンツを大量に北朝鮮に送り付けるようなことをもっとしたら良い。

 一方、世界が北朝鮮を核保有国と認めた上で北朝鮮と交渉し共存する努力をすべきだ、と言う者もいる。しかし、この道は重大な危険を孕む。北朝鮮が核兵器を製造・保有しても懲罰を受けなければ、他国にも同じ道を促すことになり、弱体化した核不拡散体制は崩壊する可能性がある。

 金正恩が核をカネと交換することは決してないだろうが、トランプが受け入れたい誘惑にかられるだろう別の取引には応じるかもしれない。北朝鮮が大陸間弾道ミサイルの開発を止めれば、米国を再び安全にしたとトランプは主張できるようになり、北朝鮮も平和条約を結んで朝鮮戦争を正式に終結させることが出来るようになる。

 そうなればトランプは長年示唆してきたように、韓国から米軍を引き揚げ、金正恩に大きな褒美を与えてしまう可能性がある。その場合、引き続き北朝鮮のミサイルの脅威に直面する韓国や日本は自前の核兵器開発に走る可能性がある。

 これは世界にとり恐ろしい結末だ。金正恩が平和的共存を望んでいる気配はない。それよりも彼は譲歩されれば、その成果をせしめた挙句、問題を起こし続ける可能性が高い。北朝鮮のような国との軽率な取引は、全く取引しないよりもタチが悪い。

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ICBM開発をどう止めるか

 Economist誌のこの社説は、トランプ政権が北朝鮮政策として何を考えているかについての取材結果に基づいて書かれたものと思われるが、トランプが米国に対する直接的な脅威である北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発を阻止するとともに、朝鮮戦争の休戦協定を平和条約に置き換えるとの取引を行うことを考えている可能性を指摘している。トランプには平和の構築者になりたいとの強い志向がある。

 この社説は、北朝鮮との拙速な取引は取引の不在よりも悪いとして、トランプ政権に北との取引を追及すべきではないと論じたものである。大筋でこのEconomist誌の懸念は共有できるものだが、ではどうすればいいのかという問題は残る。

 第1に、北朝鮮は米国を打撃するICBMの開発を目指して努力を続けている。米国は対ICBM防衛を計画しているが、その有効性はまだわからない。従って米国が北朝鮮のICBM開発を抑えたいと考えるのは自然であり、米国としては交渉でそれが達成できるならば、良しとするだろう。

 第2に、日本にとっても北朝鮮のICBM開発を止められれば、米国は自国への北朝鮮の核攻撃を心配することなく北朝鮮の核攻撃に報復し得るので、米国の日本に対する核の傘の信頼性は増すとの事情がある。

 韓国の専門家によれば、北朝鮮のICBMは弾頭を大気圏に再突入させる技術において困難を抱えているというが、北朝鮮はウクライナへの派兵の見返りとしてロシアよりミサイル関連技術の提供を受けており、対米攻撃可能なICBMの完成は差し迫っていると思われる。


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