2025年12月8日(月)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2025年10月23日

 全体の3分の1以上が1年以上も休職する結果となっているが、この人たちは、1年以上仕事を休むことによって、職場内の人間関係に負けない強い心が培われたのであろうか。ハラスメント加害者を撃墜するスキルを身に着けたのであろうか。業務量の多さを克服する職務遂行力を身に着けたのであろうか。まさか、そんなわけではなかろう。

 そもそも、「職場の人間関係」、「職場内のハラスメント関連」、「業務量の多さ」などは、原因をこころの健康に帰して、社員を休職させるべき事項ではなく、会社側の安全配慮の問題である。産業医学の用語でいえば、前二者は「作業環境管理」、後者は「作業管理」の問題である。「1年以上」の休職とは、結局のところ、原因をあたかも本人の健康問題であるかのようにすり替えて、解決すべき安全配慮課題を「1年以上」も先延ばしにしているだけである。

休職が長期化する本当の理由

 「休職明けに約5割が退職」「休職した人の約半数が再休職。転職者で4割以上が再休職」などを見れば、休職がこころの健康にいかに有害であるかを端的に示している。

 休職し始めた人は、まさか最初からその休職が「1年以上」にもなるとは予想していなかったであろう。最初は「3ヵ月」くらいの軽い気持ちだったのである。しかし、自宅療養自体が状態を悪化させて、結果として「1年以上」にもなってしまったのであろう。

 休職期間がこんなにも長くなってしまったのは、休職前の出来事であるはずの、「職場の人間関係」、「職場内のハラスメント関連」、「業務量の多さ」などのせいではない。それらは、文字通り「1年以上」も前の出来事である。休職が長期化した理由は、漫然とした自宅療養自体にあると考えなければならない。

 次回は、メンタルクリニックの“休職ビジネス”から社員を守るために、産業医、とりわけ、精神科産業医は何をすべきかについて述べる。

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