もう1つの複雑な要素は明らかに米国自体に起因する。トランプ第二期政権では、民主主義的価値観の擁護や中国に対する積極的な抑止策など、米国外交政策の伝統的な構成要素の多くが大幅に骨抜きされるか放棄される可能性がある。
一部の報道では、近く発表される国防戦略は、米国本土防衛の一環として西半球防衛を優先し、中国との大国間競争は優先課題ではあるが、米国外交政策を牽引する存在ではなくなる可能性がある。
米中が和解し大国主導の勢力圏による新しい世界秩序が到来するようなことになれば、東南アジアはもはや米国にとって優先度の高い地域ではなくなり、東ティモールがどちらの陣営に属するかも重要ではなくなるだろう。かくして米国は中国に、同地域への無制限な進出を許す戦略的機会を与える可能性がある。
以上を総合すれば、東ティモールのASEAN加盟は米国にとって好ましい展開であり、中国にとってはそれほどではないが、米国にとり東ティモールは大国間の競争により失う可能性がある存在であって、ワシントンの現状を踏まえると、そのような結末は十分に起こり得る。
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評価の高い東ティモールの民主主義
10月26日のASEAN首脳会議で正式に承認された東ティモールのASEAN加盟について、上記の論説は、まず同国が国際法を重視する民主主義国であることから、米中対立において米国に有利な変化をもたらす期待を指摘する。
他方で、東ティモールの中国に対する経済的依存やいずれの側にも付かないASEANの非同盟原則、さらには、米国が本土防衛の一環として西半球重視の戦略転換を行い中国と和解してアジア太平洋への関心が薄れる可能性があり、その結果、同国が中国の影響下に取り込まれることを懸念している。
東ティモールの民主主義に対する国際的評価は高く、同国のASEAN加盟は中国などの権威主義的勢力に対抗する上では、意味があろう。東ティモールの独立や平和構築には国連が関与し、また、豪州との海洋境界をめぐる紛争も国際海洋法裁判所の仲介で解決した経験を有しており、力による現状変更ではなく、法の支配の下での解決を国是としており、南シナ海に関する中国の横暴を牽制する上で同国がASEAN内で発言力を得ることは好ましいことは確かだ。
