2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年11月3日

 元米国国防次官のグロスマンが、Foreign Policy誌のウェブサイトに10月16日付けで掲載された論説‘Timor-Leste Adds a New Wrinkle to U.S.-China Competition’において、東ティモールの東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟は、米中対立の観点からは米側に有利な展開とも言えるが、今後米国のアジア太平洋への関心が弱まるようなことになれば、逆に米国にとって不利な変化となる懸念がある、と論じている。要旨は次の通り。

ASEANに加盟した東ティモールのシャナナ・グスマン首相(ロイター/アフロ)

 東ティモールのASEANへの加盟(11カ国目)は、同国にとり地域への統合を通じて外交・経済面で大きな利益をもたらす。しかし同時に、米国と中国が、対立する相互の戦略に同国をどう組み込むかに関心を高めることも意味する。

 ASEANの意思決定はコンセンサスによって行われる。従って、地域唯一の完全な民主主義国家であり国際法の強力な支持者である東ティモールの加盟は、地域秩序の改変を図る権威主義的な中国に対するASEANの方向性をごく僅かながらも転換させ、米国に新たな戦略的優位性をもたらすかもしれない。

 フリーダムハウスが「完全に自由」と評価する東南アジア唯一の国である東ティモールは、同地域における権威主義と非自由主義的統治の拡散に対抗しようとする米国や他の民主主義国と歩調を合わせる可能性が高い。

 しかし、東ティモールのASEAN加盟における米国の戦略的優位性は、いくつかの潜在的な課題によって相殺される。1つは、中国が依然として主要な経済パートナーであり、特に「一帯一路」構想を通じて、同国が切実に必要とする投資やインフラプロジェクトを提供している点である。東ティモールのASEAN自由貿易圏への加盟が、拡大を続ける中国の同国への経済的影響力に打撃となる可能性は低い。

 さらに東ティモールのASEAN加盟は、米国とその同盟国が東ティモールの地理的優位性を戦略的に活用する試みを複雑化する可能性がある。特に「太平洋強化計画」を通じてこの戦略を推進してきた豪州は、東ティモールを中国軍がダーウィンに向かう途上の障害物とすることで、対中戦略に深みを増す存在と見なしてきた。

 しかし、ASEANは安全保障同盟ではなく、非同盟の立場と個々の国が平和と安定を損なうことへの懸念から、東ティモールはASEAN加盟により豪州や米国との安全保障協力により慎重になりうる。


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