2025年12月6日(土)

Wedge OPINION

2025年11月7日

人材不足が深刻化する
「通信業界特有の課題」

 24時間365日、安定した通信が利用できるのはこのような通信インフラ従事者の方々のおかげだが、通信工事人材の持続性に懸念が生じており、ライフラインである通信インフラを持続可能な形で維持していく方策を考えることは、もはや「待ったなし」の課題である。

 通信インフラは、通信事業者(発注元)、元請けとなる通信工事会社や総合設備工事会社、二次・三次請けの協力会社が連携して維持されているが、とりわけ二次・三次請けの人材確保が深刻化している。

 わが国の生産年齢人口の急激な減少により、どの業界でも人手不足は深刻になりつつある。「2024年問題」として注目された物流業界や建設業のみならず、あらゆる業界で人材の〝奪い合い〟が起きているのは周知の事実だ。

 にもかかわらず、通信工事の人材不足はこれまでほとんど注目されてこなかった。背景には、電力など他のライフラインと異なる通信業界特有の課題があるからだ。

 最たる例が「設備投資額の減少」である。企業活動では通常、収益に直結するのであれば、積極的な設備投資が行われる。だが、現状では通信料金が持続的な投資を阻む水準に固定化されてしまっている。

 菅義偉官房長官(当時)が18年、「(携帯電話料金は)4割程度引き下げる余地がある」と発言したことは記憶に新しい。これ以降、第4の移動通信事業者である楽天モバイルの新規参入などによる競争激化もあり、モバイル通信料金の値下げ合戦が続いてきた。

 利用者にとっては喜ばしいことだが、この時期の値下げは業界関係者にとっては痛手であった。なぜなら、20年に登場し、大きな期待を集めた5Gへの設備投資を絞らざるを得なくなったためである。結果として、4Gで世界最先端を走っていた日本のモバイルインフラが5Gで劣後することになってしまった。

2030年代には6Gが登場する。通信の進化に日本はついていけるか?(NURPHOTO/GETTYIMAGES)

他の基幹インフラと異なる
通信の料金体系

 固定電話も、国民生活の安全に直結する役務であることから、コスト上昇や利用者減少があっても、利用者負担をなるべく抑える方向で政策運営されてきた。

 これに対して、電力、ガス、鉄道といった他の基幹インフラでは、原価に基づく料金・運賃体系が用いられている。かかったコスト(設備投資額や保守・運営費など)に適正な利潤(事業報酬)を加えた上限の範囲内で料金・運賃を設定する「総括原価方式」や「レベニューキャップ方式」と呼ばれるものだ。設備投資や保守・運営費をきちんと回収できる仕組みであるため、事業者は安定供給に向けて長期的に設備を更新・整備することができる。

 通信の世界でも、NTTの前身である日本電信電話公社の時代には、総括原価方式で固定電話の料金が決定されていた。これにより巨大な全国電話網を整備することができた。


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