1985年の日本電信電話公社の民営化を契機とした通信の自由化により、通信事業者間での設備競争を促す政策がとられるようになる。携帯電話事業者は設備増進に邁進し、基地局敷設を競い合う時代になり、4Gにおいては世界に誇れる通信インフラを構築することができた。
しかし、通信料金の低下により、「通信」分野では利潤を上げることが難しくなった。
そのため、通信インフラに関する設備投資をなるべく抑えながら、「非通信」分野に注力するのが通信事業者の現在の戦略だ。
この影響を直接的に受けているのが、元請けや二次・三次請けの工事会社である。事業を継続していくためにも、「非」通信事業者向けの工事や新規事業に人材をシフトせざるを得ない。
電力の世界では設備投資をきちんと回収できる仕組みがあるため、長期的な視点から設備投資が進められている。また、AIの普及に伴うデータセンター需要の拡大によって電力投資は拡大傾向にある。
さらに、国土交通省が定める工事単価でも電気工事単価は通信工事単価よりも高い。工事従事者からみると、電気工事は将来性のある職種として人材を惹きつけている一方、通信工事は技術の進化に対応し続けなければならないというハードルもあり、若手などの採用が進まず、人材基盤の持続性が危惧されている。
通信の未来を見据えて
日本に必要な制度設計
私たちの生活に欠かせない通信インフラを、将来にわたり持続的に維持・発展させるためには、正確な現状把握と制度設計が不可欠だ。
通信業界では現在、通信工事における現場の課題や実態を体系的に把握できておらず、十分なデータが得られていない。携帯電話事業者間の競争環境や通信自由化後の歴史の浅さがその背景にある。
一方、電気工事業界では、日本電設工業協会が電気工事業の実態や活動の内容を把握し、業界の発展や地位向上のため、電力会社と活動を共にしている。電気工事業界のように団体が通信工事業の実態を把握して通信事業者や行政と連携する仕組みを構築することが望まれる。
人材基盤の強化も急務である。通信事業者の競争領域と非競争領域とを明確にし、人材基盤の強化は非競争領域と位置づけ、通信工事従事者の主体性の確立と社会的地位の向上を業界全体で図っていくべきだ。電力業界における電気工事士のように、通信業界においても通信工事従事者の処遇改善に資する資格制度の導入なども検討の余地があろう。
さらに、通信は国家安全保障と密接に関わっており、外国人労働者を受け入れるだけで人材不足を解決できるわけではない。セキュリティを担保しつつ、人材不足に対応する制度設計が不可欠である。
最後に、生産性向上のためにデジタルテクノロジーを活用することも大切だ。下水道管の腐食による破損で埼玉県八潮市の道路が陥没し、トラックが転落した痛ましい事故は他人事ではない。デジタル変革やAIを活用した施工や保守の効率化を進めていかなければならない。
総務省も実態把握に動き始めた。しかし、解決への道筋をどう描くかは、通信の未来をどう描くかにかかっている。
通信インフラの維持・発展を最前線で支える人材の持続性を確保するためには、業界と行政、そして社会が一体となり、未来を見据えた議論を重ねていくことが重要である。
