2025年11月18日(火)

古希バックパッカー海外放浪記

2025年11月2日

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エルドアン大統領の日本における報道のイメージ

ダーダネルス海峡の要衝のチャナッカレ市内の警察署。国父アタチュル クと国旗の真ん中にエルドアン大統領の肖像。エルドアン大統領をあたかも現代の国父 であるかのような印象を与える政治的プロパガンダ

 トルコのエルドアン大統領は2003年からの首相時代も含めると22年間も政権トップの座にある。ちなみにプーチン大統領は26年間、ベラルーシのルカシェンコ大統領は31年間である。

 日本はじめ西側諸国では強権的政治スタイルや反政府的メディアへの抑圧などから独裁者的イメージが強いように思える。他方でプーチン大統領と直接交渉しながらロシア・ウクライナ戦争の和平交渉の仲介をするなど独特の外交手腕があるようだ。

 ちなみに2023年の大統領選挙の決選投票でのエルドアンの得票率は52%、対立候補のリベラル派経済学者は48%であった。投票の二カ月前の世論調査では対立候補の支持率は50%を超えていたので、エルドアンの勝利はかなり際どいものであったとも思われる。

 現在のトルコの人々はエルドアン大統領をどのように評価しているのか幅広く生の声を聞いてみようと筆者は考えた。

至る所に掲示されているトルコ国旗と国父ケマル・アタチュルクの肖像

観光バスの車体に描かれた国旗と国父アタチュルクの真ん中にエルドア ン大統領が配置されたデザイン。このバス会社は政権と近い5つの企業グループ傘下に あるのだろうか

 大都市イスタンブールから80日間かけてトルコ南東部のアランヤまで自転車旅をしたが、至る所で否が応でも目に付いたのが赤いトルコ国旗と救国の英雄でありトルコ共和国の“国父”であるケマル・アタチュルクの肖像であった。

 筆者はこの全国的な国旗と国父の肖像の大々的な掲示の背景には何かしら政治的な意図があるのではないかと感じた。

 トルコ第三の大都市イズミールの建築技師によるとトルコでは7月15日は“軍事クーデター粛清記念日”とのこと。2016年7月にエルドアン政権の転覆を謀った軍部の一部が戦車やヘリも動員してイスタンブールとアンカラで武装蜂起して国営TV局を占拠したが、1日で政権側の軍隊に武力制圧されたというクーデター未遂事件らしい。軍事衝突で300人が死亡したという。

 トルコは第一次世界大戦の敗戦でオスマントルコ帝国が滅亡した。新生トルコ共和国ではケマル・アタチュルクの政治的決断で政治から宗教を排除する政教分離を国是としてきた。これに不満を持つ保守的イスラム教徒の軍人がクーデターを起こしたという背景らしい。

 建築技師は、エルドアン大統領が政治的求心力を得るために軍事クーデター未遂事件を記念日として毎年大々的に愛国キャンペーンを展開していると解説した。エルドアン支持者はトルコ国民が熱烈に敬愛する国父ケマル・アタチュルクの肖像画を建物に掲示して国旗を掲揚することで愛国キャンペーンに参加しているとのこと。ちなみに大半のガソリンスタンドは高々と国旗を掲揚していた。

 また警察署や役所など政府機関も同様である。警察など政府機関の上層部はエルドアン派で占められているので積極的に愛国キャンペーンを盛り上げているのだろう。特に警察署ではエルドアンとアタチュルクの二人の肖像が並んで掲げられており、あたかもエルドアンがアタチュルクの忠実な後継者であるというイメージを植え付けるプロパガンダのようだ。

エルドアン大統領はトルコ共和国の“第二の国父”になりえるのか

 8月2日。チェシメ近郊の警察署でトルコ紅茶を頂きながら警察官達と歓談。署内の壁にアタチュルクとエルドアンが並んでいる合成の肖像写真が掲示されていた。その隣にはアタチュルクのスナップ写真のカレンダーがあった。

 警官らに「エルドアン大統領は国父アタチュルクに匹敵する偉大な政治家と思うか」と質問したところ全員が大笑いして首を振った。一人の年長の警官が「ボス(署長)の指示で掲示しているだけだよ。そしてボスもまた上層部から指示されて従っていると思うよ」と説明してくれた。一般の警察官はバカバカしい政治的プロパガンダと受け止めているという。22年間もエルドアン政権が継続しているので警察はじめ官僚組織には“エルドアンに忖度する”精神文化が蔓延しているのだろう。

 他方で「全ての警察官にとり国父アタチュルクへの絶対的忠誠は神聖な義務である」と真顔で語った。その場にいた全員が起立してアタチュルクのカレンダーに一斉に敬礼した。


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