「オールメイドインジャパンのノートを作りたい」という依頼。万年筆も書きやすい薄い日本の紙を使うと、米国では製本できないとのことだった。「開きの良いものにしたい」といった要望もあり、数回の改善の上で完成させ、米国でも好評を得ていた。
東京商工会議所のアドバイスも受けながら、2016年12月に自社ブランドのノート「BOOK NOTE(ブックノート)」を開発した。手でおさえなくても180度フルフラットに開いて書きやすく、背中合わせに360度折り返しても持ちやすいものとなっている。
ノートは、テレビで紹介されると、販売処理ができなくなるほど注文が入った。今では、全国30ほどの文具店が取り扱っている。
「ノート販売を機に、文具メーカーからの『ノート製造』という新たな発注のジャンルができた」と渡邉代表は語る。
それは、国内にとどまらず、米国・サンフランシスコや豪州、スペイン、マレーシア、シンガポールと、世界各国から問い合わせや注文が来た。「ほとんどが『日本の紙で作りたい』という声。製本の仕方やデザインの注文にも自由に対応できることが評価をもらっている」。今や売り上げの15%ほどが海外からの注文が占めているという。
ブランド確立へ着実な歩み
新たな市場を開拓している2社だが、まだ経営を支えるほどにはなっていないという。小沢代表は「大口の購入や発注が入った際にボーナスが出たといった位置づけ」と語る。渡邉製本もいまだメインの売上は製本で、出版社からの受注の減少を補い切れていないのが現状だ。
ただ、小沢代表は「露出が増えれば、インプットする機会も増え、ステップアップにつながる。さらに需要応える力と技術力を着実につけていきたい。また、都市化が進めばアウトドア需要も高まるとも言われているので、海外展開も模索したい」と話す。
渡邉代表は「新たな依頼は工程を考えたりしなければならず大変だが、楽しく、技術を発展させることにもなる。他と違うことを積極的にやり、そうした製本技術を忘れられないためにもSNSやメールマガジン、HPで発信していく」と力をこめる。海外からの受注も拡大しようと、英語のHPも開設した。
ブランドが広く認知され、育っていくのにはもちろん時間がかかる。それでも、自社商品を契機にした新たな商機は、企業の技術や経営を発展させることは間違いないようだ。
