2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年11月5日

「自由で開かれたインド太平洋」は「金を生む地域」か?

 第2に、トランプは安全保障問題よりも関税や投資に関心があることである。彼はは自身のSNS(交流サイト)に、今回のアジア訪問を「歴史的な訪問」であったとし、「数千億ドルもの金が米国に入ってくる」と投稿した。

 安倍が提唱し、高市が引き継いだ「自由で開かれたインド太平洋(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)」の実現を目指しているというよりも、トランプはこの地域を「金を生む地域」として捉えている節がある。

 トランプの最大の関心は、上で紹介したアジア訪問を終えた直後の投稿から分かるように、「金」であることは明らかだ。彼がアジアを、金を生む地域といつまで考えるのか。彼は、民主主義や自由といったイデオロギーや概念では動かない。

 トランプの欲求や関心を満たすために、高市は国益を重視しながらも―筆者は反対だが―「トラ高」の関係維持のためにトランプと米国を儲けさせる必要があるのだ。俗な言い方だが、「トラ高」は、まさに「金の切れ目が縁の切れ目」になるかもしれない。

 第3に、中国が「トラ高」の落とし穴になる可能性がある。これは一体どのような意味だろうか。

 今回の米中首脳会談に中国強硬派のピーター・ナバロ上級顧問(通商・製造業担当)の姿がなかった。以前、「トランプ関税交渉の行方『強硬派ナバロ対穏健派ベッセント』」で指摘したように、トランプは穏健派のスコット・ベッセント財務長官を重視したために、トランプ政権における対中強硬派の影響力が低下した。

 米有力紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は、中国はロシア産石油を購入しているが、中国が米国に対して再度レアアースへのアクセスを制限することを懸念して、トランプは中国に対して2次制裁を実施しなかったと報じた(10月付)。トランプは、中国に強硬発言を繰り返し、「終身国家主席」の習近平国家主席よりも強いリーダーであるとアピールしているが、実際には制裁措置をとらない。

 仮に、将来、中国との貿易摩擦が解消の方向へ進み、米中の2人の権威主義者が急接近して手を組んだ場合、トランプのアジアにおける安全保障の関心はかなり薄れるかもしれない。MAGA(マガ:Make America Great Again 米国を再び偉大する運動に賛同する人々)の基本的な考え方は、「米国産の装備品を買え。自分で守れ」であるからだ。そうなれば、安全保障における「トラ高」に影響を及ぼすこと必至だ。

 以上、「トラ高」には、少なくとも3点の落とし穴が存在する。これらの落とし穴に嵌らないために、高市はトランプの自尊心と自己愛を満足させながら、強いリーダー像を発信し続け、トランプの言動を注意深く観察および分析していくことが不可欠である。

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