2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年11月10日

 ルクオイルとロスネフチを特に標的とした新たな制裁は、ウクライナ戦争の終結と、長年追い求めてきた平和の推進者としての地位を確固たるものにするための、トランプ氏の新たな取り組みだ。

 ルビオ国務長官は、制裁措置によってモスクワを交渉のテーブルに着かせるという全体的な目標は変わっていないとしつつ、「大統領は何カ月も前から、和平合意が進展しなければいずれ何らかの行動を取らなければならないと繰り返し述べてきた。今日、大統領は行動を起こすと決意したのだ」と述べた。

 トランプ氏はプーチン氏への圧力を強めるために他にも手段を持っているが、まだそれらを行使していない。例えば、ウクライナへのトマホーク巡航ミサイルの配備、制裁対象のロシア石油大手と取引する企業への新たな二次制裁の発動、あるいはロシアのいわゆる「闇の艦隊」を標的とした制裁措置などが挙げられる。

 プーチン氏に本格的な譲歩を約束させるには「制裁以上のもの」が必要だが、ロシアの脆弱な戦時経済が石油とガスの収入に大きく依存していることを考えれば、ロスネフチとルクオイルに対する今回の制裁は経済の流れを変える可能性がある、と政権当局者は述べている。発表からわずか1日以内に、インドの石油精製会社はロシアからの原油供給を削減する措置を講じ、中国の国営石油会社は少なくとも一時的にロシア産原油の購入を停止した。

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EUも制裁と支援

 今回トランプは、今プーチンと会談するのは「時間の無駄だ」と言いながら、同時に「将来会うことになる」とも述べており、またそもそもトランプの行動には常に予測困難さが付きまとうことに注意が必要であるが、欧州を含む大きな流れとしては、ロシアに対する厳しい姿勢が徐々に具体的措置に結びつきつつあると考えて良いと思われる。

 ただし露側もこれを牽制する動きに出てくるのは間違いなく、しばらくは緊張感が一層高まる状態を覚悟する必要があるだろう。以下に、直近の両者の主要な動きを取りまとめておきたい。

 第一に最も重要なのは、今回の制裁措置が、ウクライナ和平を目指す中で、これまでのトランプ大統領に見られた「喧嘩両成敗」的アプローチの転換を意味しているということだ。「どちらにも言い分がある」のではなく、ロシアが和平への障害となっているという、この戦争の本質に対する正しい認識に立ったことになる。

 また制裁内容も、ルクオイルとロスネフチのみならず、両社が「直接または間接に」50%以上を所有する子会社をも対象とし(総数30社近くの米国内資産が凍結される)、制裁措置に違反した場合は米国人であれ外国人であれ刑事罰が科される可能性にも言及するなど、相当に厳しい措置となっている。


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