サプライチェーンの保持に必要なこと
本書はまずサプライチェーンの強靭化について言及する。サイバー攻撃はサプライチェーンを破壊する。これを防ぐにはサイバーセキュリティが必要で、複数の法改正が伴う。高市氏はこう記す。
そのうえで、特定重要物質の安定供給を確保しなければいけないと強調する。特定重要物質とは何か。それは国民の生存に必要不可欠な重要性、外部依存性、外部から行われる行為による供給途絶の蓋然性、安定供給確保のための措置を講ずる必要性の四つが条件になるという。
具体的な品目としては、抗菌性物質製剤、肥料、永久磁石、工作機械・産業用ロボット、航空機の部品、半導体、蓄電池、重要鉱物(レアメタル、レアアース等)などをあげる。2022年に政令で11物資が指定され、24年1月には新たに先端電子部品(コンデンサ、高周波フィルタ)なども追加された。
このほか本書では、重要設備の妨害行為を未然に防ぐことの必要性についても言及する。その対象を「特定社会基盤事業者」と呼び、使用する「特定重要設備」の機能が停止し、または低下したりした場合に、国家や国民の安全を損なう事態を生じるおそれが大きい先を政令で指定した。具体的には、電気、ガス、石油、水道、鉄道、貨物自動車運送、航空、電気通信、放送、金融などがあたる。さらに、特定重要技術の開発を支援することの意義についても触れる。ここでいう特定義重要技術とは、「中長期的に我が国が国際社会において確固たる地位を確保し続ける上で不可欠な要素となる先端的な重要技術」とし、バイオ技術や医療・公衆衛生技術、人工知能・機械学習技術、ロボット工学、サイバーセキュリティ技術、宇宙関連技術など20項目を挙げている。
気を付けるべき中国法と米国法
民間企業にも関わる重要なものとして経済安保版の「セキュリティ・クリアランス制度」の必要性について言及しているのも特徴である。これは、国家における情報保全措置の一環として、信頼性の確認(適正評価)を行って情報を漏らす恐れがないと認められた者、つまり「セキュリティ・クリアランス・ホルダー」が重要情報を取り扱う制度のことをさす。
厳格な情報管理や提供のルールを定め、情報の漏洩や不正取得した場合の罰則を科すことが通例とされているが、これに対して日本のビジネス界からは切実な要望がある。日本では防衛装備品を製造する企業以外でも、軍事転用可能な民生技術を持っている企業や技術者が多いことから日本企業が外国政府の調達に参加しようとする場合、セキュリティ・クリアランスを保有していないと説明会に参加できなかったり、必要な情報が提供されなかったりして、貴重なビジネスチャンスを逃す事態が起きていると本書は指摘する。この点について高市氏はこう記す。
このほか本書で注目されるのは、外国法制度のリスクについての言及である。例えば中国は、日本の主要貿易相手国であり、わが国のみならず各国のサプライチェーンに強い影響力を持ちつつ、多数の研究者や留学生を世界各国に送り込んでいる。
