2025年12月11日(木)

韓国軍機関紙『国防日報』で追う

2025年11月19日

 韓国海軍は92年にドイツから潜水艦を導入して国内生産体制を確立、2000年代に入ると「大洋海軍」を掲げ、現在ではAIP搭載潜水艦やイージス駆逐艦など227隻の艦艇を保有し、海軍力ランキングで8位になるまでに成長した。外洋海軍(ブルーウォーター・ネイビー)指向の背景には、ドイツ商船士官として世界を股にかけた孫元一のDNAが影響しているのかもしれない。

軍隊への政治工作に起源を持つ国防日報

 本連載でウォッチしている韓国軍の機関紙「国防日報」が創刊61周年を迎えた。64年に「戦友」という名で産声を上げた同紙は、韓国光復軍の出自と朝鮮半島の分断という特殊な地政学的状況が生み出した「必然の産物」といえる。

 国防日報の起源は、韓国軍の「政訓」制度にある。政訓とは政治工作の略語で、ルーツは17年のロシア革命に端を発する政治将校制度に遡る。政治将校制度は中国国民党軍を経て、40年に重慶で創設された韓国光復軍へと伝播した。

 光復軍初代参謀長の李範奭(イ・ボムソク)は後に韓国の初代国防部長官として、政治将校制度を韓国軍に導入しようとした。しかし、米軍顧問団から「非民主的」と強い反発を受け、妥協の産物として「政訓局」が設置された。ソ連軍のような監視・統制機能は持たず、精神教育・広報・文化活動に制限された。

 そして64年11月16日、「政訓」活動を支援する機関紙として「戦友」が創刊された。当時の朴正煕大統領が親筆揮毫を送ったことからも、重要プロジェクトであったことが窺える。

 その任務は明確で、「将兵の精神教育を通じて、正しい軍人精神、国家観、安保観を涵養し、敵と戦い勝利することができる精神的な備えを確立する」ことにあった。ここから同紙が、北朝鮮軍の機関紙「朝鮮人民軍」と同じく、体制の正統性を主張し、兵士の戦意を維持する宣伝扇動の武器であったことが理解できる。

 なぜ韓国はこのような思想プロパガンダ的な機関紙を必要としたのか。軍事境界線を挟んで同じ言語、同じ文化を持つ民族が銃口を向け合う状況において、「なぜ戦うのか」という大義の提示は死活的に重要だったからだ。

 しかし、61年という歳月を経て、政訓は「公報正訓」に改称され、国防日報は紙面にとどまらず、YouTube、Instagram、AIコンテンツへと進化した。かつての政治宣伝色はほとんどなくなり、公報正訓兵科の将兵は自身をメディア・広報職だと自覚している。

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