Foreign Affairs誌の11月・12月号(Web版では10月21日付け)が、これまで台頭する国と没落する国の双方が存在することで国際秩序の変遷が起こってきたが、今後、台頭する国が現れないことで国際秩序が停滞するのではないかと指摘するマイケル・ベックリーの論説‘The Stagnant Order’を掲載している。概要は次の通り。
今や、台頭する国と没落する国との交錯が紛争を生むパワー・トランジションの時代は終わろうとしている。ここ数世紀で初めて、世界の力のバランスをくつがえすほどの勢いで台頭する国が存在しない状況が生じている。
これまで大国を生み出してきた人口ブーム、産業上の飛躍的な進歩、領土の拡張はほぼ収まった。中国はピークを迎え、経済は減速し、人口は減少しつつある。日本、ロシア、欧州は停滞している。インドには多くの若年層がいるが、それを強みに変えるための人的資本と国の能力に欠けている。米国は、債務、低成長、政治の機能不全などの問題を抱えているが、それでもライバル国を上回るペースで前に進んでいる。
今や、世界を構成するのは、高齢化する既存勢力、ミドル・パワーの国、発展途上の国、そして破綻国家ばかりである。
この変化は、大きな影響をもたらすであろう。台頭する国は領土、資源、地位を求め、多くの場合、戦争に至る。台頭する国がなければ、長期にわたってそうした状況が起こらないことにはなるが、短期的には、経済停滞と人口動学上のマイナス効果が危険な要素となる。
脆弱な国家は、債務とユース・バルジ(注:人口ピラミッドにおける若年層の突出。社会・政治的不安定性の原因やテロの温床となると指摘される)に苦しむ。苦境に立つ国は、衰亡を避けるための領土回復や軍事化に取り組む。
経済不安は、急進的な思想を生み、民主主義を腐食させる。現に、米国は、乱暴な一国主義に陥りつつある。台頭する国が存在する時代は終わりつつあるが、その後に生まれるのは、やはり暴力的な時代かもしれない。
第一の危険性は、停滞する国が「失われた」領土を取り戻し、大国の地位を維持しようと、軍事化の道を歩むことである。ロシアは既にウクライナ侵攻という賭けに出ており、抑制されなければバルト諸国やポーランドを視野に入れるかもしれない。中国も台湾において同様の行動を取る可能性がある。かつては台頭する国であったものの現在は停滞しているこれらの国にとり、征服への着手は誘惑的である。
