第二の危険性は、人口が急増する重債務国における破綻である。多くの途上国において寿命が伸びたが、経済が革命的に進歩しない限り人口増が重荷になる。
第三の危険性は、民主主義国における反リベラリズムである。民族的ナショナリズムによる政党が欧州中で台頭するなど、欧米では政府への信認は大きく下がり、自動化と不平等で中間層が空洞化し、アイデンティティ政治に火がついた状況となっている。
一方、希望の兆しもある。新たな挑戦者が出現しないことで、覇権を争うライバル関係という破壊的な循環を経験しなくても済む。また、資本が豊富に存在するが労働力が足りない先進国と、その逆の途上国との間で新たな協力関係が生まれるかもしれない。
人口動態は予測可能であるが、技術や政治では予想外の進展があるかもしれない。しかし、自信をもって言えることは、過去250年間、大国の急速な台頭によって世界の政治が動かされてきたが、そうした台頭を生み出した力が後退しているということだ。それは安定をもたらすとは言えないが、大きな変化であることは間違いない。
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「停滞している」中国
この論説の著者のマイケル・ベックリーは米中対立をテーマとした『デンジャー・ゾーン』(原著は2022年)をハル・ブランズとともに著した米国の国際政治学者である。この論説では、視座を広げて国際秩序の将来について論じている。
この論説が主張するポイントの一つは「パワー・トランジションの時代の終わり」である。思えば15年ほど前には「パワー・トランジション」の議論が盛んであった。
中国が経済力、軍事力、国際政治における影響力で米国を凌駕するのではないかと考えられ、覇権国の交代が論じられた。ところが、今や、この論説においては「中国はピークを迎え、経済は減速し、人口は減少しつつある」と、ロシアとともに「停滞する国」のグループに入れられている。
ベックリーは、『デンジャー・ゾーン』において、国力がピークを迎えた「ピーキングパワー」が攻撃的になると指摘し、中国がそうした状況に至っているとの認識の下、台湾有事への備えの必要性を説いた。この論説において、ベックリーは、中国への見方をさらに厳しい方向にシフトさせ、「かつては台頭する国であったものの、現在は停滞している」国と捉えている。
