2025年12月14日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年11月24日

 この論説が主張するもう一つのポイントは、「世界の力のバランスをくつがえすほどの勢いで台頭する国が存在しない」と、かつては中国が想定されていた「次の主役」が存在しないと断じていることである。インド、ブラジル、トルコ、インドネシア、アフリカ大陸。世界の将来像を論ずる際には、多くの「次の主役」の候補国が論じられてきたが、ベックリーはそうした議論から一線を画している。

 「次の主役」候補国の代表選手はインドであるが、ベックリーは、インドが国際秩序を引っ張っていくような「台頭する国」となる可能性について、「多くの若年層がいるが、それを強みに変えるための人的資本と国の能力に欠けている」と厳しい評価を下している。

 世界の将来像を論ずる際には、人口動態が参照されることが多く、人口が増えている国、生産年齢人口の比率が高まっている国が将来性のある国として注目される。しかし、人口の大きさは国の負担ともなり得るし、若者が多いことは、社会・政治的不安定性の原因やテロの温床となると指摘される「ユース・バルジ」への言及に示されるように、社会や政治の不安定要因ともなり得る。人口動態におけるプラス面を発展と安定につなげるための条件が必要である。

「台頭する国」はないのか?

 ベックリーが今後の「台頭する国」を否定する根拠は、かつての「台頭する国」を支えた、人口、産業、領土といった要素が今後は見込めないとの認識にある。これは、かなり大胆な予想であるが、果たしてそうであろうか。

 国際秩序を主導する「台頭する国」の登場は、数年の単位というよりは、少なくとも数十年の単位の出来事である。人口、産業、領土における制約は当面の短期的な予想としては妥当しても、数十年単位の長期的な予想を行うには無理がある。ベックリーの議論は興味深いものではあるが、その妥当性の時間的な射程については、慎重に考えておいた方が良さそうである。

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