政府は物価高対策としてコメの購入に使える「おこめ券」の配布を盛り込んだ。東京都がかつて行った「おこめクーポン」については本欄ですでに書いている(「東京都の「おこめクーポン」なぜ物価対策に現物支給なのか」)。そこで筆者は、膨大な事務費を中心に批判して、アメリカが行っているフード・スタンプ(食品の購入に使える金券)を低所得者向けに配布する、あるいは、日本がすでに行ったことのある現金給付(もちろん銀行口座に振り込む)の方がずっと良いと書いた。
今回のおこめ券は、さらに問題だ。なぜなら、おこめ券は米価を引き上げるだけで、所得の低い人には何の助けにもならないからだ。
対象をコメに限定することに問題
その大きな要因は、コメの供給量は一定だからである。鈴木憲和農林水産相は「需要に応じた生産をする(生産調整)」と述べ、事実上、石破茂政権下で決まった“増産”を撤回した。要するに、コメの増産は行わず、米価が下落しないようにすると明言した訳だ。
需要供給曲線で考えてみよう。コメの供給量は増やさないのだからコメの供給曲線は垂直である。需要曲線は価格が低くなれば欲しい人が増えてくる通常の右下がりである。ここでおこめ券を配布したらどうなるだろうか。コメだけに使える券だから、コメの需要は上方にシフトする。
すなわち、コメの価格は上昇する。コメの供給曲線は垂直なのだから、おこめ券の効果はコメの価格を上げるだけで、所得の低い人をなんら助けることにはならず、物価の上昇を招くだけである。

