2025年12月14日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年12月3日

 ナイジェリアはキリスト教徒とイスラム教徒が半々であり、北部ではイスラム過激派のボコ・ハラムによる暴力行為が続いているが、被害者はキリスト教徒に限られず、紛争の背景は宗教というよりも遊牧民と農民の間の資源をめぐる部族的な衝突という性格が強いとされる。ナイジェリア政府もジェノサイドを否定し、すべての信仰を保護すると主張し、米国との対話と共同作戦を提案している。同国は、有数な石油産出国であり、トランプは、このような形で圧力をかけることにより、影響力やエネルギー資源確保のためのディールの材料としてロシアや中国に対抗するつもりではないかと思われる。

対アフリカ政策の3つの柱

 トランプ第2期政権の対アフリカ政策は、これまでソマリアのイスラム過激派に対する攻撃の継続に見られるように、イスラム過激派テロ対策が1つの柱である。もう1つの柱が資源の確保を目的とする様々なディールであり、今年5月には、コンゴとルワンダの間の紛争について、米国企業の投資を絡ませて調停を行い、7月には、トランプは、ガボン、ギニアビサウ、リベリア、モーリタニア、セネガルの5カ国首脳とのランチミーティングを開催し、米側は資源やエネルギー利権を求め、アフリカ側はインフラ等への米国からの投資を求めた由である。

 今般のナイジェリアへの関与を契機にキリスト教徒の保護が3つ目の柱となるのか否か、もう少し見極める必要があるが、サブサハラのキリスト教徒人口の6割を超えているのであれば、それなりのインパクトを持つものであろう。他方、これがキリスト教徒対イスラム教徒の対立という構図に受け取られれば、アフリカのみならず中東やアジアにおけるイスラム教徒の反米感情を煽り、イスラムテロの活発化を招くリスクもあり、慎重な取り組みが必要であろう。

 トランプの関与の手法は、資源のある国や戦略的に重要な国への投資や貿易を通じた取引によるものであり、安全保障についても基本的に現地政府の責任で対応することを求め軍事的な支援は最小限に留めるものである。資源確保を重視する選択的アプローチは、中露が関心を持つのもそのような資源に恵まれた国であるので、両国に対抗する上で効率的であり、また、キリスト教徒支援の要素を加えることは場合により効果的かもしれない。

 また、民主化にこだわらないトランプは、スーダンや西アフリカ等の軍事政権に対しても取引的な手法で紛争解決や安定化に関与する可能性もある。しかし、資源のない諸国への対応は国際社会の課題として残ることになる。

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