つまり、知識とは本来、「覚えるもの」ではなく、「学び手が創り上げていくもの」なのだ。
思考力に欠かせない
「スキーマ」と「記号接地」
子どもたちの学力の土台となる「思考力」を伸ばすために何が必要なのか。ここで重要になるのが「スキーマ」と「記号接地」という二つの概念である。
スキーマとは、人が経験を通して自然と身につけた暗黙の知識のことであり、新しい情報を理解する際の「座標軸」のような役割を果たす。
例えば、「ものをグループに分けて、機械に入れてスイッチを押し、そこから取り出して、またグループに分けて整頓をする」という文章があった時、これだけでは何のことか分からない。だが、この文のタイトルに「洗濯の手順」と書かれていたら、スキーマによって文字として記されていない細かな流れも思い描くことができるだろう。
新しい情報を理解する時、人はこのスキーマに照らして意味づけを行う。まったくスキーマがない分野に関しては、どれだけ丁寧に説明されても理解は難しい。逆にスキーマがしっかりしていれば、限られた情報でも筋道を立てて理解し、応用することができる。
このスキーマによって、もう一つの重要なプロセスである「記号接地」がスムーズになる。記号接地とは、言葉(記号)が現実世界の感覚や経験と結びついている状態のことを指す。例えば、「いちご」という単語を聞いた時、「いちご」の形や色、甘い香りや甘酸っぱい味といった具体的な感覚が自然に浮かぶ、これが記号接地だ。
思考力には、「点」としての知識が意味を伴って頭の中でつながり、「面」となることが重要である。スキーマと記号接地は、そのつながりの土台となる。
これらの土台は、幼児期から小学校低学年にかけて大きく育まれる。ただし、スキーマは、常に正しいとは限らない。特に、子どもは視覚や触覚などの知覚できる経験に頼ってスキーマをつくるため、「数」や「単位」のような、物理的に見たり触ったりできない概念に対して、誤ったスキーマを持ったり、理解が曖昧なまま放置されやすい。
その結果として、入試のような複雑な問題ではなくても、ごく普通の教科書に出てくるような算数の文章題ですら解けないという子たちが出てきている。
例えば、「AさんのテープはBさんのテープの4倍で48センチ・メートルです。Bさんのテープは何センチ・メートルですか」という問題がある。正解は12センチ・メートルだが、これに「48−4=44」や「48×4=192」と答えてしまう子どもが少なからずいる。「数」の概念を理解できていないために、「数を小さくするときは引き算をする」、「『倍』という言葉があれば『掛け算』を使う」といった思い込みだけで途中式を書いてしまうのだ。
こうした状況に大人が果たすべき重要な役割は、何度も反復して同じ問題を解かせることではない。大人が自分たちの有する「学び」や「認識」に関する誤認識に気が付き、子どもが誤ったスキーマを持っていないかを見極め、持っていた場合には子どもが自ら誤認識を修正できるように支援することである。

