アメリカン・エンタープライズ研究所のアジア安全保障専門家のクーパー氏によれば、韓国内では潜水艦の導入は長く検討されてきたものの、米国で建造するというアイデアは真剣に議論されたことはなかったという。もっとも、フィラデルフィアの造船所には原子力艦の建造経験がない。
同氏はまた、「これは、高市早苗首相が掲げる新たな防衛力整備の一環として原子力潜水艦を取得するか否かをめぐる東京での議論を加速させるだろう。アジアの複数の米国同盟国が同時に原子力潜水艦隊の建造を進める可能性があることを考えると、北京を心配させるだろう」と述べた。
ソウルのシンクタンク、世宗研究所の研究員ピーター・ワード氏によれば、韓国にとって独自の原子力潜水艦を建造したいという願望は1990年代にまで遡るが、北朝鮮と中国からの脅威の高まりを受け、米国の防衛に対する信頼が薄れるにつれて、近年そうした要求は一層強まっている由だ。
中国が黄海に鉄骨構造物を建設することで中韓間の係争海域の領有権を主張しようとしているとみられる中、韓国と中国の間の緊張も近年高まっている。本年3月、北朝鮮の国営メディアは金正恩委員長が自国の原子力潜水艦の船体を視察する画像を公開したところ、韓国政府内にはディーゼルエンジン搭載の潜水艦では不十分ではないかとの懸念を引き起こした。
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原子力潜水艦の5つの優位性
トランプ政権が米国に誕生して以来、極東における米国の同盟諸国は通商分野の軋轢に端を発して、安全保障の課題についても従来の体制の見直しを迫られている。通商問題の解決のために米国と交渉する機会は、安全保障分野での新たな交渉の機会でもあり、韓国は長年の課題をこの機会を捉えて修正しようとしているのであれば、それは外交的に機敏なステップであると言えるだろう。
一般に、原子力潜水艦が通常型潜水艦に対し戦略的に優越する諸点は次の5点に整理できると言われている。
第一に、航行時間はほぼ無制限に近い。原子炉を動力とするため、燃料補給なしで圧倒的長い持続潜航航行が可能である。浮上・通気を必要としないため、敵に発見されにくく、残存性が高い。いわゆる戦略原潜(SSBN)はこの長期潜航性を背景に、核抑止力の信頼性を担保できる。
第二に、高速航行能力が高い。高出力での潜航が可能であるため、水中で30ノット超の高速航行が可能である。
通常型潜水艦が高速航行すれば、低速走行に比してより短時間に通気のための浮上を必要とする。長時間、高速で潜航できる点では他のどの艦種も比肩し得ない。敵艦隊は言うまでもなく、敵の潜水艦を追跡する際にも圧倒的に有利である。
第三に、積載量(兵装、センサー、乗員や設備)が大きくても潜航航行に限界が生じないため、巡航ミサイル、重量魚雷、特殊部隊用設備などの搭載量を格段に大きくすることができる。
