人間の能力を超えつつあるAI
降りたって、観光客でごった返す広場を散策しながら、すでに「AI時代」の本格到来を実感させられた。
同時に、無人タクシーの利点とマイナス面を考えてみた。
有人タクシーとの比較でまず、第一の利点は、乗車リクエストをスマホ入力後、待合場所に車が到着までの速さだろう。今回、2日連続で合計4回「Waymo」を利用したが、いずれも、呼び出して5~6分後には無言の迎車が到着した。
2日目の夜、5000人近くの観客が集まる評判の大サーカス・ショーを見に行った。終わって会場外は駐車場に向かう帰りの客であふれかえっていたが、こちらはワン・ブロック歩いた路上で「Waymo」を呼ぶと、ものの5分後には迎車が現れ大助かりだった。
第二に、チャージされる料金の安さだ。日本でなら、所要時間30分余の移動なら5000~6000円、渋滞時は7000~8000円が相場だが、今回は20ドルを超えたことは1度もなかった。
会社側にとって客探しに時間をかけることもなく、効率よく運用でき、営業的にもコスト・ダウンできるのだろう。利用客から見ても無人なので、運転手にチップ(通常、料金の20%程度)を払う必要がない分ありがたい。
第三に、徹底した安全運転が挙げられる。前後左右の走行車の常時監視はもちろん、細道からの歩行者の飛び出しも瞬時に察知できるマルチ・ディレクション・カメラがとらえ、状況に応じスピード制御やブレーキがかるので、事故件数も人の運転時より少ないといわれている。
大手自動車保険会社がまとめた昨年1年間のデータによると、「Waymo」が関係した人身事故件数は、人間の運転した車事故に比べ92%少なく、建造物破損事故は人間の運転より88%少なくなっている。
渋滞車線からのレーン・チェンジも、人間以上にスムーズだ。運転手が後部座席の乗客との会話で盛り上がり、前方不注意でハンドル裁きが遅れたりしかねない無用の心配などしなくて済む。
さらに、市内は急傾斜の坂が多く、普通の車なら、上りから下り坂に変わる際に運転席が一時上向きになり、前方の車の流れが一瞬見えにくくなることもあるが、無人車なら天井から突き出したレーダーとカメラが難なく前方確認できるので、不安を感じさせることはまずない。
今や現実に、AIは人間の能力を超えつつあるのだ。
しいて不満があるとすれば、せいぜいトランクからのスーツケースの出し入れは自分でやらなければならず、観光地での地元運転手ならではの有益情報入手は期待できず、途中体調不良でトイレに立ち寄ったりすることができないことくらいか。あとは文句のつけようもない。
30年前との〝違い〟
筆者はここで、ワシントン特派員だった1990年代半ば、当時チェス世界チャンピオンとして知られたゲリー・カスパロフ氏が、IBMの開発した最先端人工頭脳プレーヤー「ディープ・ブルー」の挑戦を受けた“世紀の対決”取材のため、東海岸のフィラデルフィアまで出かけた時のことを思い起こさずにはいられなかった。
