懐疑論は、イランと核開発問題について協議することのリスクという点で正しい。しかし、問題解決の機会を逃す場合、その対価を払わなければならない。トランプ大統領は、前回のイラン核合意から一方的に撤退した前科があるが、現在は「自分は、イランの核問題解決の交渉に対して全くオープンだ」と言っている。
イランの国外への影響力は、弱体化していると信じられている。その代理勢力は衰え、サウジアラビアのような長年の対立国との関係を改善している。
国内でもイスラム革命体制は態度を軟化させている。宗教指導者達はそのコントロールを弱めており、国家統一のシンボルとしてのシーア派のイデオロギーは弱まり、国家主義的なペルシャ的なシンボルが用いられている。
ハメネイ最高指導者は、2015年のイラン核合意でウランの濃縮を厳格な制約の下に置くことに同意したが、再度、イラン政府が西側と協力する事を受け入れる用意があるように見受けられる。彼は、86歳であり、その死後、後継者を巡って改革派と強硬派の間で権力闘争が起きるだろう。
仮に(強硬派の)革命防衛隊が勝利すれば、西側との関係改善より、イランが孤立し続けることを望むだろう。なぜならば、革命防衛隊のフロント企業が制裁により儲かるだからだ。
現在、イランと米国の関係を新たなものとする稀有な機会がある。イランとの交渉によりイラン国内の強硬派を弱体化させ得る。トランプ大統領は、イランに特使を派遣し、どのような交渉が可能か調べさせるべきである。
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イランの時間稼ぎの可能性も
Economist誌らしい、重要な論点を簡潔に取り入れた社説だ。6月の空爆後、行方が分からなくなっている400キロの高濃度濃縮ウランの問題(アラグチ外相は、核施設の瓦礫の下に埋まっていると主張している)である。
6月の米軍の空爆前に米・イラン交渉はほとんど妥結しかけていたのであり再交渉したい、というアラグチ外相の発言。来年、イスラエルは総選挙を控えており、再選を目指すネタニヤフ首相は、その手段として再度イランを空爆するかも知れない。
現在、イランのイスラム革命体制は内外で揺らいでいる。そして、高齢のハメネイ最高指導者の死後、後継者に強硬派の革命防衛隊の息がかかった人物がなり、イランの孤立と米国他との対立が続くという懸念がある。
しかし、交渉再開の提案は、イラン側の真剣な提案だったとしても、交渉が再開しても途中で破綻する可能性が高く、核合意が再開しても長続きせず、米国を初めとするイランとの緊張・対立が長期的に改善する可能性は低いと考えられる。
