2025年12月24日(水)

#財政危機と闘います

2025年12月24日

高市首相の2つの責任

 高市首相が掲げる「責任ある積極財政」とは、単に国債を発行して歳出規模を大きくする量的な拡大ではなく、「財政が経済成長を牽引する責任」と「市場の信認を維持し財政を持続させる責任」という2つの責任を両立させる経済・財政運営方針とされる。

 具体的には、小泉純一郎内閣の下で竹中平蔵経済財政担当大臣によって掲げられた「プライマリーバランスの黒字化」という財政再建目標を一旦脇に置くことで、財政規律より財政出動で経済を回復させることを優先させる「経済あっての財政」という考え方に立脚している。「経済あっての財政」とは元来は国家は市場経済に寄生する存在なので、国家が経済の重荷になって国家も経済も共倒れにならないよう財政は極力小さくすべきという考え方だったが、現代日本では真逆になってしまった。

 故安倍晋三元首相が推進したアベノミクスはデフレ・円高のもと「金融緩和」に主眼を置いていたのに対し、高市首相の「サナエノミクス」は、インフレ・円安のもと「財政出動」と「戦略的投資」によるいわゆるワイズ・スペンディング(賢い支出)に重点を置いているのが特徴だ。

 「財政が経済成長を牽引する責任」とは、短期的には、ガソリン税・軽油引取税の暫定税率廃止、電気・ガス料金支援、診療報酬・介護報酬引き上げ、中小企業・農林水産業支援など物価高対策で家計を下支えしつつ、中長期的には、経済安全保障、食料・エネルギー・健康医療安全保障、国土強靭化、AI・半導体・量子・バイオなど先端技術分野への官民連携投資といった危機管理投資と成長投資という戦略的な財政出動(投資)で所得を増やすし、消費の活性化を図り、企業収益を上げる。その結果、税率引き上げなしでも税収が増える自然税収増を実現しつつ経済成長も実現するというサイクルを目指していると考えられる。ただし、税の自然増収が国内総生産(GDP)比で見ても上昇するのであれば、所得の増加以上に税負担が増えるのだから、単に増税を言い換えたに過ぎない。

投資の連鎖は生まれるか

 高市内閣では、11月に日本成長戦略会議を開催して、その中で官民投資の促進に向けて「重点投資対象17分野(AI・半導体、造船、量子、バイオ、航空・宇宙、デジタル・情報安全、コンテンツ、フードテック、資源エネルギーGX、防災・国土強靱化、創薬・先端医療、核融合、重要鉱物、港湾ロジスティクス、防衛、情報通信、海洋)」を選定した。こうした民間投資を誘発しやすい分野に国費を投じる(あるいは減税で誘導する)ことで、民間投資を呼び込み、投資の連鎖を生む算段である。

 12月19日に日本銀行が1995年以来となる政策金利の0.75%への引き上げを決めとはいうものの、諸外国と比べれば依然として金利は低いし、依然としてマイナス金利のままだ。カネ余りが続く日本で、政府による誘導がなければ民間企業が成長分野に投資しにくい環境にあるとは信じがたい。

 金利も低くカネ余りの現状下で、民間企業が政府の政策を待ってから受動的にしか投資ができないとすれば、それは成長分野ではないか、投資が失敗したときの責任を経営者が取りたくないからに他ならない。要は、民間がリスクを取ることなく投資したいだけで、政府が政策によって民間の投資を呼び込めたとしても、それが「投資が投資を生む」連鎖につながるとは考えにくい。

 また、成長政策におけるワイズスペンディングとは、政治家や官僚が、成長分野を適切に選択し、予算を付けていく必要がある。つまり、民間より官僚が「賢い」ことが大前提としてある。


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