2025年12月24日(水)

#財政危機と闘います

2025年12月24日

 そもそも官僚が民間より成長分野に関する情報を多く持っていて、適切に判断できる根拠はあるのだろうか。仮に官僚にアドバイスする企業経営者や有識者が成長分野に関して有意義な情報を持っているとしても、なぜその経営者なり有識者は自分でその成長分野に投資を行わないのだろうか。結局、市場を出し抜いて政府が成長分野を見極め投資できるほど、政府も官僚も賢くはない。

 さらに、官僚は失敗を極度に回避しがちな傾向にあるため、「安全な前例」や「すでに成功している事例」を選びがちとなる。しかも、官僚は政策の企画立案は行えるものの、最終的な意思決定は政治家にある。政治家により、政治的妥協や選挙対策、業界への利益誘導が優先されれば、やはり、ワイズスペンディングは行われにくくなるだろう。

低下する潜在成長率

 実際に、政府支出が増えれば成長率は引き上げられるのだろうか。以下の表は、内閣府や日銀のデータを基に、日本の経済成長を支える「実力」である潜在成長率と、政府支出の規模を比較したものである。

 同表からは、これまでの政府支出が潜在成長率を十分に押し上げられていないことが分かる。つまり、(1)政府支出が「呼び水」となって民間投資を誘発できていない、(2)政府支出が、長期的成長にとって重要な全要素生産性(TFP)を押し上げていない。

 要するに、技術革新や効率化に失敗しているのだ。これまでワイズスペンディングできなかった官僚機構が政権が代わったぐらいで突然ワイズスペンディングができるようになるなら、官僚機構は今に至るまでサボタージュしていたに違いない。

 結局のところ、これまでの政府支出増の多くの部分は「社会保障費(年金・医療・介護・子育て)」の拡大に充てられてきた。こうした支出は、現在の国民生活を支えるための「消費的支出」であり、将来の生産性を高める「投資的支出」が相対的に不足していたことが、潜在成長率が上がらない一因と分析することもできる。

 そもそも、政府が確実に実行できる政策は法的強制力が伴う再分配政策だけで、強制力が伴わなければ政策によって企業の行動を政府の意のままに自由に操ることはできない。馬を水辺にまで連れていくことはできても馬に水を飲ませることはできないのと同じ理屈だ。

 高市内閣が、「責任ある積極財政」で「強い経済」を実現するには、官僚に成長分野を見極めさせるギャンブルに賭けるのではなく、歳出削減や社会保障改革により財政が国民生活や経済に与える負荷を軽減することが肝要である。筆者が月刊『Wedge』25年7月号に寄稿した『政治家が続けるバラマキ政策にはもうウンザリ!国民も「クレクレ民主主義」やめ、真の困窮者支援を急げ』で指摘したように、もっぱら他人のカネを当てにするパラサイト社会では経済は成長しない。

 「強い経済」を実現したければ、従来型のターゲット型産業政策や再分配政策の強化ではなく、民間経済の政府からの自立を促し、自助努力を取り戻すことこそが喫緊の課題である。

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