まず、カタールは産油国でありながら、近年はガス生産を重視しているため、原油生産量を最大化するための油田への再圧入にガスを使用していない。これにより、ほぼ全ての生産分(約97%)を国内外の市場向けに割り当てることが可能である。
次に、カタールは、総人口が約300万人と小規模であるため、国内市場へのガス供給量を抑え、余剰分の多く(約76%)を輸出に割り当てられる。他方、同じ中東諸国のイラン(総人口:約8900万人)やアルジェリア(約4500万人)、UAE(約940万人)では、産業用や発電用のガス消費量の急増が、輸出量の拡大への制約となっている。
カタールのLNG増産計画
ハマド前首長が90年代にLNG事業を本格化させた時と同じように、13年に新首長となったタミーム現首長にも、ガス田開発に関して先見の明があった。カタールは22年10月に始まったウクライナ戦争前から、将来的なガス収入の増加を見据えて、他国に先行してLNG増産計画を進めてきた。
17年、資源温存を目的としたガス田開発の中断措置を12年ぶりに解除し、NFガス田拡張プロジェクトを打ち出した。第1段階の「NFイースト(NFE)」事業では、年産3200万トンの液化設備が設置されるため、カタールのLNG年産能力が現在の7700万トンから1億900万トンに増加する。また、第2段階の「NFサウス(NFS)」事業や、第3段階の「NFウエスト(NFW)」事業も段階的に実施される予定で、LNG年産能力は30年までに1億4200万トンにまで増える見通しである。
カタールはNFガス田拡張に伴う、LNG増産分の輸出先の確保にも努めている。同国のLNG主要輸出先はアジア地域であり、近年は中国が日本・韓国・インドを抜き、カタール産LNGの最大購入国となった。カタールは東アジア諸国で市場シェアを維持しつつ、ガス需要の増加が見込まれる南西アジア諸国や、ロシア産ガス輸入を控えている欧州諸国への販路拡大を目指している。
さらに、カタールは米国LNG事業にも参加し、欧州でのガス収入向上も目指している。22年10月より、国営カタールエナジーがエクソンモービルと手掛ける米国テキサス州の「ゴールデンパスLNG」事業(年産能力は最大1800万トン)では、カタール側が生産された7割のLNGを引き取り、販売する予定である 。
米国は欧州へのLNG輸出に好立地であるため、カタールエナジーは取引可能な米国産LNGを活用することで、欧州でLNGの販路を広げられる見込みである。こうした自国産以外のLNGのトレーディングは、カタールにとってガス収入の増加につながる。
カタールは海外事業を通じて国外で輸出先を自由に変更できるLNG分を確保し利用することで、国際ガス市場での影響力を高めていくだろう。


