日本にとってカタールの重要性
カタールが進めるLNG増産計画とアフリカにおける仲介外交は、日本にとっても一定の恩恵をもたらす可能性がある。LNGを巡っては、日本は西側陣営の一員としてウクライナ支援に取り組む立場にある一方、現時点ではロシア産LNGに一定程度依存している。
今年1~10月のLNG輸入量のうち、ロシア産は419万トンと全体の8.9%を占め、第3位の供給国となっている。その輸入額は約4198億円にのぼった(出所:財務省貿易統計)。
日本企業の多くは、26~33年にかけてロシア産LNGの供給契約更新時期を迎えることから、脱ロシア依存を本格的に検討する局面に差し掛かっている。しかし、ウクライナ戦争の情勢次第では、欧米諸国が日本に対し、より迅速かつ踏み込んだ脱ロシア政策の実行を求める可能性も否定できない。
こうした中、LNG供給能力を拡大するカタールの役割が一層重要となっている。確かに、カタール産LNGには転売を制限する「仕向地条項」や、20年以上に及ぶ長期契約といった制約が存在する。その反面、一定量のLNGを予見可能な価格で長期にわたり安定的に確保できるという利点も有している。
また、カタールは今年6月に米軍基地がイランから攻撃を受け、9月には首都ドーハがハマス幹部を標的としたイスラエルの攻撃を受けるなど、地政学リスクが一時的に顕在化した。しかしその後、米国のトランプ政権がカタールの安全保障を米国が確約する大統領令に署名し、両国の防衛協力体制は一段と強化された。この点を踏まえると、今後カタールの安全保障環境が著しく脅かされる事態は想定しにくい。
アフリカ仲介外交の観点から見れば、カタール主導の和平協議がDRC東部情勢の安定化につながれば、スズやタンタル、タングステンといった重要鉱物がM23の支配下に置かれる事態を防ぐことができる。これにより、これら鉱物の違法な採掘や取引を抑制する効果も期待される。
さらに、和平協議を通じてカタールがDRC政府からの信頼を高めることができれば、両国の友好関係が、カタールによる鉱物資源権益の獲得にとって追い風となる可能性がある。DRCの鉱物事業では中国が圧倒的な存在感を示している中、中国以外の鉱物サプライチェーン構築に向けて、カタールのアフリカ進出が一定の役割を果たすことも考えられる。こうしたカタールの動きは、重要鉱物の調達先確保を模索する日本にとっても、好材料であると言える。
