2025年12月26日(金)

World Energy Watch

2025年12月26日

注目されるカタールのアフリカ仲介外交

 カタールは、天然ガス産業にとどまらず、仲介外交の分野においても国際的な存在感を高めている。アフガニスタンのタリバンやパレスチナのハマスといった非国家主体との独自の関係を活用し、21年の米国・タリバン間の「ドーハ和平合意」や、25年10月のイスラエル・ハマス間の停戦合意の成立に重要な役割を果たしてきた。

 こうした実績を背景に、近年ではアフリカ情勢においても仲介役を担おうとする動きを強めている。現在、カタールが和平・停戦に向けて積極的に取り組んでいるのが、コンゴ民主共和国(DRC)情勢である。

 東部の北キブ州・南キブ州では、ツチ系戦闘員で構成される武装組織「3月23日運動(M23)」が、DRC軍や親政府民兵などを攻撃し、治安情勢が深刻化している。M23は、同じくツチ主体のルワンダ政府の支援を受けているとみられる。

 こうした中、カタールは25年7月および11月にDRC政府とM23の関係者を首都ドーハに招き、停戦に向けた原則宣言の合意を取りまとめるなど、仲介役を果たした。また25年11月、カタールのタミーム首長はルワンダとDRCを実務訪問し、20億ドルの対ルワンダ投資や210億ドルの対DRC投資を発表した。

 首長自らが訪問したことは、カタールがアフリカ政策において両国を戦略的に重視していることを示している。その背景には、食料の安定調達と重要鉱物の権益確保という2つの狙いがあると考えられる。

 まず、カタールは国土の大半が砂漠で農業生産に制約があり、食料の約8割を輸入に依存している。一方、ルワンダでは人口の約6割が農業に従事し、肥沃な土地を有するものの、外貨獲得につながる輸出市場が十分に確保されていない。両国の協力関係は、カタールにとっては食料供給源の多角化と安定確保、ルワンダにとっては農産物の販路拡大という相互利益をもたらす可能性がある。

 次に、カタールは石油・天然ガス収入によって蓄積した資金を海外投資に振り向けており、多様な重要鉱物を有するDRCの資源開発にも強い関心を示してきた。カタール投資庁(QIA)は、DRCで採掘事業を行うカナダ企業の株式を取得しており、DRC南東部カタンガ州フォアランド地域での銅開発プロジェクトへの参画を予定している。

 ルワンダおよびDRCに対して大規模投資を進めるカタールにとって、両国における政治的・治安的安定の確保は不可欠である。しかし、DRC東部の前線では戦闘が依然として収束していない。

 今後、M23を支援するとされるルワンダに対し、経済協力や投資を梃子として、DRCへの軍事的関与をどこまで抑制できるかが、カタールの仲介外交の成否を左右する重要な試金石となろう。


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