2026年2月20日(金)

プーチンのロシア

2026年1月4日

かなぐり捨てた財政規律

 当然、毎年赤字を出し続ければ、政府債務残高が拡大していく。それを、やはり新旧予測の各2つのシナリオに沿ってまとめたのが、図2となる。

 19年の旧予測では、政府債務残高は20年代後半以降、16~17%程度の水準で横這いになる超安全運転が想定されていた。地球全体を見渡しても、これだけ保守的な財政スタンスの国は、珍しかったと言える。世界には、トルコやベネズエラなど、強権政治がポピュリスト的な放漫財政と結び付いている国もあるが、ロシアは明らかにそれとは一線を画していた。

 プーチン政権としては、まかり間違ってロシアが債務不履行などということになったら、米国の息のかかった国際通貨基金(IMF)の管理下に置かれてしまうという危機感があったのではないか。だからこそ、ロシアの金融・財政政策は、過剰と思われるほど慎重だったと、筆者は理解している。

 それが、今回の新予測を見ると、基礎シナリオでも緩やかに、保守シナリオでは急激に、政府債務残高が膨らんでいくことになっている。むろん、出発点が超健全水準だったので、今後債務が多少拡大し、基礎シナリオにあるように42年に債務残高がGDP比32.2%になっても、まったく問題はない。

 保守シナリオの69.4%でも、国際的に見て特に高いわけではない。債務の絶対的な水準だけを見れば、プーチンの言うとおり、ロシアは依然として非常に低い。

 問題は、ロシアの場合、これからもずっと赤字が続くことが確実で、債務に歯止めをかける仕組みが用意されておらず、しかも戦争・制裁や「中国ショック」などでさらに条件が悪化しかねないなど、構造的な不安要素が大きいことであろう。

 プーチン政権は、健全財政という国是をかなぐり捨て、赤字・債務が膨らんででも、ウクライナを支配下に置くことを目指したということになる。実は、ロシアが長期財政見通しを策定するようになったのは15年のことであり、クリミア併合後の経済制裁や、原油価格の暴落などで、経済・財政が揺らぎかけていた状況下であった。そうした中で、その場しのぎではなく、国家として長期の制約条件を可視化するために、長期財政予測を制度化したわけである。

 このように、15年に「国家の理性」として制度化された長期財政予測が、25年になって「国家が理性を二の次にしたという現実」を可視化してしまったのは、皮肉である。プーチン政権にとり、財政規律は「守るべき前提」から、「犠牲にしてもよい制約」へと、明確に格下げされたわけである。

 戦争はロシアの経済・財政に大きな負荷をかけているが、国民に犠牲を強いたら不満が膨らんで、強権プーチンとて政権維持がおぼつかない。そこでプーチンは、戦争の請求書を将来世代に付け替えることで、国民の不満爆発を回避しつつ戦争を続けているのである。


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